34 ページ34
「帰っちゃうの！？」
「え、うん。さすがに迷惑でしょ？」
「全然いいよ！化粧水とかもあるし服は俺の貸すし、歯ブラシとかも新しいのあるし」
「いやいや、今日の今日はちょっと…」
「な、何もしないよ！？」
「それは私どういう反応するのが正解なのかな」
ハグとキスで軽くキャパオーバーなのに、このまま一緒に過ごすにはちょっと、否だいぶ私にはハードルが高過ぎる。
「またいつでも会えるんだし、ね？」
「ん、わかった」
しゅん、と見えないはずの犬耳としっぽが垂れてるようなジェシーくんはちょっと可愛い。３度目の連絡先交換をして玄関でもう一度ハグ。
「本当に送らなくていいの？」
「うん。すぐ近くだから」
「明日も会える？」
「ジェシーくんお仕事でしょ？終わるの早いの？」
「ううん。夜中になる」
「じゃあまた今度だね」
「えー…あ！！ちょっと待ってて」
至近距離で叫ぶのはやめてほしい。ビックリしたし軽く耳が痛い。何やらリビングでガタガタと音を鳴らしていたかと思えば走ってくるジェシーくん。
「これ！」
「鍵？」
「家の鍵！これがあればいつでも家に来れるでしょ？明日でも明後日でも好きな時に来て」
ニコニコなジェシーくんから銀色に光る合鍵を受け取ってキーケースに仲間入りさせる。好きな時にと言われても、と思いながらも凄く嬉しくて頬が緩む。
「お家着いたら連絡してね？」
「うん。おやすみ」
「おやすみ。気を付けてね」
ばたん、と閉まったドアを背に大きく息を吐く。エレベーターに乗ってスマホを取り出す。再び登録されたジェシーくんの連絡先と撮ったばかりのツーショット写真を眺めていれば地上にはあっという間。
思っていたより近くに住んでいたのはビックリした。ほんの数分歩いた先の自宅はジェシーくんの家より何倍も狭く感じる。
「ただいま」
今日ももちろん返事はない。ジェシーくんに“着いたよ”って連絡すれば早すぎる帰宅に驚いていた。数回やり取りしながら部屋の中を歩く。
「大我くんのおかげでジェシーくんと会えたよ。付き合うことになったよ」
19歳のまま時が止まった彼の写真にその日のことを報告するのは日課だった。それも今日で最後にしよう。
「ありがとう…私と出会ってくれてありがとう」
写真立てを抱き締め目を閉じる。楽しい思い出も辛い思い出も全部全部私の大切な宝物。
「幸せってこういうことなの、かな？」
見慣れたはずの彼の笑顔が一段と優しく輝いて見えた。
ー完ー
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 410人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：いか | 作成日時：2023年9月23日 19時
