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「ドン底か…毎日ドン底、だったな」
「彼が居なくなってから？」
「うん。でも、お仕事は休まなかった。お仕事してる私を好きだと言ってくれたから」
この数年でまだ数えられる程しかAちゃんの仕事ぶりを見てないけど、どの作品にも関わる人たちにも真摯に向き合っていたと思う。
「じゃあ、これからも」
「ううん。私ね、女優辞めたの」
「え！？なんで？」
「若くて才能ある女優さんはこれからどんどん増えるし、実力と経験を兼ね備えた先輩もいる。私の武器はなんだろ？って考えたときに他の人に勝るものが見つからなかった。今日で女優AAは店じまいしてきたの」
「…だから今日？」
「うん。ジェシーくん時間とれなかったらどうしようって思ったけど、会えて良かった」
笑ってるのに笑ってるように見えないAちゃん。ここ最近忙しくしてたのは全部辞める為だったのか。
ということは……
「もうAちゃんとは、会えない？もうお仕事も、お仕事以外でも会えなくなるの？」
「ジェシーくんはアイドルでしょ。たくさんのファンがいる、たくさんのお友達もいる。私が居なくなっても、平気でしょ？」
「そんなわけない！！俺はAちゃんと…っく、」
ただAちゃんと一緒に居れるだけでいいのに、言葉にしようとしたのに出るのは涙だけ。カッコ悪いな、俺。フラれても友達になるとか言ってたのにそんなことさえ言えないなんて。
「ちゃんと考えた。いっぱい考えた結果、ジェシーくんのこれからを私がダメにしたくないって思ったの」
「俺は、Aちゃんが運命の人だって本気で思ってる」
「私は運命なんて信じない」
「だったら、俺が証明する。これが俺らの運命だって言うなら超えてみせるから」
「…どうやって？」
「どうせAちゃんのことだからまた連絡先消すんでしょ？大我にも同じように言うでしょ？それならゼロから絶対またAちゃんと出会ってみせるから！覚悟しといて」
「っ！そう、楽しみにしてる」
「言ったからね！もう約束してないって言わせないから」
お互いに目の前で連絡先を消して車に乗った。最初の集合場所までは無言で、車を降りるときもなるべく目を合わせないように深く帽子を被り直した。
「体には気を付けて」
「…ジェシーくんも。活躍楽しみにしてる」
ドアを閉めたら振り返らずまっすぐ駅の改札に向かった。人が少ない電車は静かで泣くには向かない場所だった。
次に大我と会った時にAちゃんと会った日は彼の命日だったと聞いた。
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作者名：いか | 作成日時：2023年9月23日 19時
