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最近は滅多に使わなくなった路線の電車に乗ってスマホに届いた集合場所である利用者の少ない駅に着いた。夕方というより夕御飯時だからか部活終わりの学生がちらほら居る中に混ざって改札を抜けた。
辺りを見渡してもAちゃんの姿は見えない。一緒に降り立った学生たちは皆帰路に着いていて俺だけがぽつんと残されているみたい。
“まっすぐ横断歩道渡って左の駐車場”
Aちゃんから届いたメッセージ通りに進む。手前から順に車を見ていると真ん中辺りにAちゃんの乗った黒い車。
「一応後ろ乗ってくれる？」
これはAちゃんの車なの？免許持ってたの？なんでここなの？って聞きたいことはいっぱいあったけど、話をするタイミングを見失って黙って運転するAちゃんを時々見ながら知らない街の景色を眺めていた。
「着いたよ。ちょっと降りようか」
車が数台停められる駐車場に行き着いた。わかることはここが海の近くということだけ。
今日は月も出ていて都心とは違って星も沢山見える。波の音も穏やかで心地が良いな。
「そこのベンチ座ろうか」
「うん。ここは良く来るの？」
首を横に振ったAちゃんと少しだけ距離を開けて座る。でも、なんとなくここはAちゃんの、彼との大切な場所なんだろうなと気付いた。
「免許取り立ての彼がここに連れてきてくれて、告白してくれた場所。その後も何回か訪れたかな。シーズン過ぎたら穴場なんだ、ここ」
そんな思い出の場所に俺が来ても良かったのかな。月明かりに照らされながら懐かしむようにちょっと涙を堪えながら話すAちゃん。
「私が車の免許取ったら今度は私の運転でここに来ようって彼と約束してたの。彼が亡くなるちょっと前に」
「なんで俺を連れて来たの？大事な場所なんでしょ？」
「大事な場所だから。だからジェシーくんと来たかった」
期待半分、不安も半分。バクバクと鳴る心臓はライブの前よりも激しいかもしれない。
「私ね、彼との思い出いっぱいあったの…あったはずなのにね、段々と忘れてしまってるみたいで。すぐ思い出せるのは彼との最期の場面、あんなに笑顔が素敵で優しかった面影よりも傷だらけの顔がぱっと頭に浮かぶんだ」
今の俺に出来ることはAちゃんの話を黙って聞くこと。
「彼とのこと一生忘れない！って彼に誓ってお別れしたのに、思い出せないの。声も仕草も表情も、靄が掛かってるみたいで曖昧な記憶になってる。忘れるはずないって思っていたんだけどね」
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作者名：いか | 作成日時：2023年9月23日 19時
