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Prrrr…Prrrr…
「っ！ごめん、ジェシーくん。…あ、ごめんなさい。すぐに向かうから…」
Aちゃんのスマホが鳴って俺の腕の中からスルリと居なくなってしまった。かくいう俺もポケットの中のスマホがさっきから振動しっぱなし。こっちもマネージャーかな。
「ジェシーくん、その、」
「“ごめん”はいらないよ。Aちゃんは何も悪いことしてないでしょ？」
「あり、がとう。もう、行かないと」
「うん。マネージャーさん待ってるもんね。またね」
私服に着替えるだろうし俺が長居する理由はない。ドアを開けて廊下に誰も居ないかさっと確認して自分の楽屋に戻った。中にいたマネージャーに何してたのって少し怒られたけど、そんなことよりもAちゃんが心配だった。
大我から聞くのとAちゃんから聞くのと大差ないと思っていたけど、やっぱり当事者の話は重く感じたし今もまだAちゃんの心の中には彼がいるんだ。
わかった気でいたけど俺は本当の意味ではわかっていなかったんだと痛感した。
「……ジェシー聞いてるの？」
「聞いてるよ。ラジオの前にカレー食べたいねって話でしょ？」
「全然聞いてないじゃん。カレーは食べるけどさ」
ため息をついたマネージャーと外に出る。月も星も見えない真っ暗な夜空はどこか不気味で無性に虚しくなった。
「遅い！」
「ごめんって。ちょっとジェシーくんと話してた」
会話らしい会話かと聞かれたら違うかもしれないけど。泣いたのがバレないようにメイク落としシートで崩れたメイクを落として、帽子を目深に被って車に乗り込んだ。
「ジェシーくんと？ふーん？」
「ニヤニヤしないで。別にただの世間話だし」
「でも、前よりいいなって思ってるでしょ」
「良い人なのは認める。でも私が好きな人はジェシーくんじゃない。今もずっと彼だけ」
「さっき言ってた運命の人？でも、その彼はもう…」
「わかってるよ！彼がもう居ないことなんて！！それでも…それでも私はっ、」
引っ込んだはずの涙がまた溢れる。袖口で雑に涙を拭って窓の外を見る。煌びやかな街の灯りとは真逆の月も星もない暗闇の空は大嫌い。
彼との最期の夜も今日と同じ真っ暗な夜空だったから。
「ごめん、取り乱して。ジェシーくんのことも彼のことも、もう触れないでほしい」
「…わかった。こっちこそごめんね」
心がずっしりと重く感じる。何度見上げても空に光りはなく、まるで自分自身が表されているみたいに思えて目を背けた。
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作者名：いか | 作成日時：2023年9月23日 19時
