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「無理だよ、やめときなよ」
「ううん！私にとって彼は運命の人なんだから」
キラキラした笑顔で言うAちゃんは誰を思ってそのセリフを言ってるのかな。
俺じゃないことは明白だ。Aちゃんの心の中にはずっと彼がいるから。
それでも今この瞬間だけは俺だけのものって思ってもいいよね？
「あの…好きです！」
「え、うん。ありがとう？」
「私を彼女にしてください！！」
「カノジョ？」
これが現実だったら喜んでAちゃんを抱き締めるのにな、なんて。演技だってわかっていても“好き”の言葉に舞い踊る俺は単純過ぎるのかもしれない。
もう少しでAちゃんと毎日会えなくなる。それまでになんとかしたい。せめてもう一度連絡先を、あわよくば食事になんて誘ってみたりして…ってそろそろ撮影に集中しないと。目の前のお姫さまに怒られちゃうね。
あと少しで映画の撮影もクランクアップだ。そうなれば今度こそジェシーくんとは頻繁に会わなくなる。
この撮影でジェシーくんの印象が変わった。何度となく告白してきてくれた時は“また言ってるよ”みたいな感じだったけど、それを封印して“友達”のように接してくれるジェシーくんは本当に良い人で、そんな人からの告白を無下にしてきたのかと考えたら胸が痛い。
けれど、ジェシーくんに対して恋心が芽生えたかと問われたらそれは違うんだと思う。ジェシーくんの人となりは素敵なんだと理解してるし実感している。
彼と似てることも気付いている。
だからこそ惹かれてはいけない、って自分にブレーキを掛けている自覚もある。
「Aちゃん！今日もお疲れさま」
「ジェシーくん、お疲れさま」
役が抜けても太陽みたいな笑顔は一緒、少しだけ柔らかい表情になるのにくすりと笑ったりなんかして。
「Aちゃん、この後時間ある？」
「え？」
「みんなでご飯食べに行こうって話してて、Aちゃんも一緒にどうかなって」
「みんなで…なら、行こうかな」
「ホント！？じゃあ向こうでみんな待ってるから一緒に行こ」
久しぶりに大型犬のしっぽが見えそうなくらい笑うジェシーくんに少しだけ嬉しく思う自分に首を振る。
「どうかした？」
「ううん、なんでもないよ」
「そう？俺の知り合いがやってる焼き肉屋行くんだけどさ、そこが本当に旨いんだよね！よくメンバーとも行ってて…」
楽しそうに笑うジェシーくんの隣を歩いて少しの後悔。
今の私を彼はどう思っているのだろうか。
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作者名：いか | 作成日時：2023年9月23日 19時
