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大きな仕事の前には必ず訪れる彼の眠る場所はいつ来ても静かで、もの寂しさが消えない。涙をハンカチで拭いて大きく深呼吸する。
あれから６年経った。まだ６年？もう６年？２歳差だったはずの年齢が私の方が歳上になっちゃって、これからどんどん差が大きくなるんだな…
「これも運命？」
呟いても返事はもちろんない。わかりきっているけれど声に出してしまうのはこの場所での癖なのかもしれない。
「声が、聞きたいよ」
恥ずかしがって一緒に撮った写真はほとんどない、動画だって残ってない。今の私には彼が動いて喋っていた記憶がどんどん薄れてきている。
一生忘れないんだって思っていたのに、忘れるはずがないって思っていたのに、なんで大切な思い出ばかり消えていってしまうの？
「「あ、」」
「ひ、久しぶりだね、元気？」
「うん、元気だよ」
どことなくぎこちない会話。いつも太陽みたいに眩しい笑顔で話し掛けてくれていたジェシーくんが今日は雲が掛かっているみたいに笑顔に影が差している。
なんで？なんて野暮なことは言わない。私が原因なのは明白だ。連絡先を消したのもあるし、律儀に京本さんが私と彼の話をした、と教えてくれたから。
「相手役よろしくね」
「こちらこそ」
運命の恋をする女の子の役、その相手役がジェシーくんだなんてどんな偶然なんだろう。貰った台本を読んでジェシーくんみたいな人だなって思ってたからジェシーくんであることは必然だったのかもしれないけど。
「Aちゃん」
「ん？なに？」
「俺にもう１回チャンスをくれない？」
「チャンス？」
「うん。俺ね、Aちゃんのことちゃんと知りたい。まずは相手役ってのもあるけど、それも今までのことも抜きに友達から始めたいなって」
「友達？」
「俺がAちゃんを好きな気持ちは変わらないよ。でも、ちゃんと段階を踏んで仲良くなってからでも遅くないかなって考えたんだ」
ジェシーくんと友達に？でも私がそれ以上にはきっと思うことはない。それをわかってて言ってるのかな？
「大我から聞いたからちょっとだけ知ってる。大切な彼のこと、忘れろなんて言わない。ずっと大切に想ってて良いから」
「え、」
「だってAちゃんの大好きな人でしょ？俺はその気持ちを一緒に大事にしたいって思ってる」
家族にも京本さんにも“忘れろ”って言われてた彼のことを、彼のことを何も知らないジェシーくんが…？
「そんなの、綺麗事だよ」
「うん。でも、もう決めたんだ」
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作者名：いか | 作成日時：2023年9月23日 19時
