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「どうしたの？きょもも高地も変だよ」
「そうかな？俺は何も変わらないよ」
「変わったよ。俺がAちゃんの話をするようになってから、大我は変わった」
京本の深呼吸が楽屋内に響く。ジェシーの言うとおりで彼女の話をするようになってからの京本は目に見えて不機嫌だったりする。そこにはきっと俺らの知らない何かがあるのだろうけど、それか何なのかは全く想像出来ない。
「大我とAちゃんは何なの？何があったの？ただの知り合いじゃないでしょ？」
「俺とAは…」
京本がAさんを名前で呼ぶと高地以外はわかりやすく反応した。“知り合い”というには親しげで“他人”というには無理がありそうで、少しの沈黙の後に京本は持っていた漫画を置いてスマホに持ち替え操作するとジェシーに画面を向けた。
「俺とA、それから俺の親友だった男の子」
「この人って、」
「これがジェシーの恋の叶わない理由。Aがずっと好きな人、Aの彼氏」
「親友“だった”ってどういうこと？」
京本にストレートに疑問をぶつければわかりやすく困った顔をした。でもその疑問の先に京本とAさんの“何か”があるのは明白だ。けれど、こんなにもあっさりと知ってもいいものなのかはわからない。
「失礼します。そろそろ準備お願いします」
「あ、はーい。とりあえず終わったら続き話してよね」
スタッフさんに呼ばれて一先ず仕事を優先。どこか重たい雰囲気の中ジェシーだけはパッと仕事モードに切り替えていて、俺らはジェシーに続いて楽屋を後にした。
「今日は晴れて良かった。次のお仕事はちょっと大きな役を貰えそうなんだよね。運命の恋をする女の子の役だって。相手役はまだわかんないけど」
花屋さんで買った花束を生け直しながら話し掛ける。返事はない。いつまでも慣れない感覚に胸が押し潰されそうで喉の奥がツンと痛くなる。
「運命って、なんだろうね」
太陽みたいなジェシーくんが一瞬ちらついて首を振る。大きなため息をついても何も変わらない。涙を堪えようにも一度溢れた涙は簡単には止まることなく頬を伝う。
「ねえ…私はこれからどうしたらいいのかな？」
返事はない。
返事がないことの寂しさ虚しさは十分に知っている。知っているのに私はジェシーくんにそれをしている。酷い奴なんだ、忘れてもらいたいんだ、自分勝手な私を嫌ってほしい。
声も仕草も何もない冷たい石碑を前に私はただただ泣き続けた。
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作者名：いか | 作成日時：2023年9月23日 19時
