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「はあ、」
朝起きてから、いや昨日家に帰ってから何度ため息をついただろうか。高地くんを“優吾くん”と呼ぶようになったこと、彼に名前で呼ばれたことに心臓がうるさいくらい脈打ったことを何度も何度も思い出してしまう。
嬉しくて、でも顔には出さないようにするとため息が出てしまう。
学校に行ったら、教室に入ったら、またいつもの笑顔で名前を呼んでくれるのかな？なんて考える自分はやっぱり彼が好きということなんだろうか。でも、大我くんに名前で呼ばれた時も同じような感覚はあったわけで…となると？
「朝から何百面相してんの？」
「うわ！た、大我くん、いつからそこに」
「さっきから。呼んだのにAが気付いてなかったから」
「あ、ちょっと考え事を…って体調大丈夫なの？今日も来れるかわかんないって言ってたのに」
「熱も下がったし、家に居ても暇だしね。早く来たらA居るのもわかってたから」
「ん？私？」
「昨日の授業のノート写させてもらおうかなって。いい？」
「それはもちろん」
「ありがとう」
にっこり笑う大我くんはいつも通りで、あの日のことがまるでなかったかのよう。やっぱり私が自意識過剰だっただけ、なんだろうか。
昨日の授業でなにやったとか話ながら登校して、教室に着くなりノートをせっせと書き写す大我くんの背中を時折見ながら私は読みかけの本を開いた。
「おはよー、京本くん大丈夫なの？」
「うん、大丈夫。佐伯も連絡くれてありがとね」
「はよー、大我。平気そう？」
「なんとかね」
「そっか。無理すんなよ」
サエが登校してきてすぐに優吾くんも来た。目が合うと笑っておはよう、と言ってくれて私も返す。
「あ、そういやこれ樹からAに渡してって頼まれた」
「私に？」
「昨日のお詫びだってさ」
優吾くんから渡されたのはコンビニのビニール袋。中身はお菓子とジュースでお詫びどころかこっちがお礼しなきゃいけないのに、と思っていると大我くんが振り返った。
「高地ってAのこと名前で呼んでたっけ？」
「あー、うん。昨日から、ねA」
「う、うん」
「そうなんだ。あ、Aノートありがとう。助かった」
数冊のノートが手元に返ってきたと同時にチャイムが鳴り、机の中に片付けようとすると自分では貼った覚えのない付箋に気付きノートの間からそっと剥がすと大我くんの綺麗な字が並んでいる。
《この間は困らせてごめん。今まで通り普通に接してくれたら嬉しい》
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作者名：いか | 作成日時：2023年5月20日 19時
