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朝の教室はいつもより静かで、もうすぐ始まるテストの為に自習しているクラスメートたちを見て違和感に気付く。
「おはようA」
「優吾くん、おはよう」
「…大我と喧嘩でもした？」
「え？なんで？」
「いや、いつもなら俺の席座って話してるから」
席替えをしてからは俺が登校するまで大我がここに座ってAと話している、というのがお決まりルーティーンみたいになっていた。この間のカラオケの帰りに会った時も大我の様子がおかしかったし、何かあったのかとAに聞いてみても苦笑いするだけ。
「喧嘩はしてないよ、大丈夫」
「そう、ならいいけど」
斜め前に視線を向ければ頬杖ついてぼーっとする大我。２人がそう言うなら俺はこれ以上言及は出来ない。
だって、俺はただの友達でしかないのだから。
「こーち！英語の教科書貸して」
「またかよ、樹」
「ついでに辞書も！」
休み時間に樹が教科書借りに来るのは珍しいことじゃない。数日に１回は来るし、なんならジェシーや慎太郎も来る。
「サンキュ!後で返しに来るわ」
「おー、お礼はジュースでいいからな」
教科書なんて持ち歩かなさそうに見えるのにちゃんと家に持って帰るのは意外だよな、と樹を見送る。ふと隣を見ればこれまたぼーっとしているA。さっき樹もチラッと様子を見てたけど、当の本人は全く気付いてなさそう。
「…やっぱり何かあったでしょ」
「ん？え、なにが？」
「だって大我が休み時間にも寄ってこないって今までになかったし」
「そう、だっけ？」
「喧嘩したなら仲直りは早めにしな？大我って結構キツイこと言うときもあるけど、それはあいつなりの優しさでもあるからさ。誤解しないでやってね」
なんで俺は大我のフォローしてるんだろ。Aと大我が別れたらそれこそチャンスなはずなのに、それを心から望まない俺もいる。
北斗や樹に諦めなきゃ希望はある、って言われてきたから今も俺はAを変わらず想い続けているけれど、この想いを告げたいという気持ちはない。
ぽろ、っと保健室で眠るAにこぼしてしまったことで俺の想いは届かないんだって痛く実感したから。
もう口にしないって決めた。
だから、
お願いだからそんな困った顔で笑わないで。
俺の決意を鈍らせないで。
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作者名：いか | 作成日時：2023年5月20日 19時
