隣の席の苦労人２ (ページ33)

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友達とカラオケに来るのは初めてではないけれど、こんなにもずっと笑ったりしてるのは今までになかったかも。大我くんとジェシーくんがデュエットしたり田中くんがラップしたり、みんな凄く上手くてほぼ聞き役に徹していた。

「白石さん大丈夫？」

「ん？大丈夫だよ」

「賑やか過ぎて疲れてないかなって思って」

ちょっとお手洗いに、と廊下を出たところで後ろから声を掛けてくれたのは松村くん。彼もまた綺麗な低音と高音を使い分けていて凄かった。

「あのさ、余計なお世話だってのはわかってるんだけどさ」

えっと、その、と言いづらそうに目線を泳がす松村くんは珍しい。何かあったかな、と足を止めて思考を巡らせると“京本”という単語が聞こえてきた。

「もしかして大我くんとのこと？」

「うん。どうなったかなって思って」

「どう、なるのかな。昨日は話せなかったから今日終わってから話し合う予定」

「そっか。白石さんは、気持ちに変化あった？」

「あったと言えば、あったのかな」

大我くんのことをもっと好きになった。でも、優吾くんのこともまだ好きなままで、前よりも…と言ったら目の前の彼は呆れてしまうだろうか。

「俺は京本とも高地とも友達だけど、白石さんとも同じように友達だと思ってるからさ。だから、俺のことも頼ってもいいからね？アドバイスとかは出来ないかもだけど話して楽になることだってあるし」

「…うん、ありがとう」

「それだけ言っておきたくて。後悔だけはしないようにね」

じゃあ後で、と松村くんは部屋に戻っていった。

「楽しかった？」

「うん。大我くんは思ってた以上に上手でビックリしちゃった」

「そうかな？でも、Aにそう言われると嘘でも嬉しいや」

「嘘じゃないよ」

みんなとカラオケ前で分かれて大我くんと２人のんびりと歩く。いつもと変わらないはずなのに緊張するのはきっとこれから話すことについて。

近くの公園のベンチに並んで座る。さっきまではすらすらと会話出来ていたのに２人してぱったりと口数が減った。

「俺ね、多分Aが思ってる以上に我が儘なんだ」

「え？」

「高地や北斗に“くそ坊っちゃん”って言われるくらい。欲しいものは何しても欲しいって思うのは昔から変わらなくて、Aを誰にも取られたくないって思ってお試しを提案した」

「うん、」

「Aとお試しでも付き合えてすごく幸せだった。でもね、俺はやっぱり我が儘だから今のままは嫌なんだ」

大我くんの横顔は今まで見たなかで１番綺麗で儚く見えた。