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グラウンドに日陰なんてものはない。教職員用と救護用のテントはあるけれど基本的には用が無ければ入れない。太陽と反射して照り返す地面もどちらからの熱は暑い。
「高地だ」
「うわ、北斗と一緒かよ」
短距離走に出場する為に列に並べば隣を走るのは北斗らしい。こいつ速いんだよな、と狙ってた１位へ暗雲が立ち込める。
「高地はリボン交換してないの？」
「声は掛けられたけど、断った」
「結局忘れられないってわけだ」
「…お前と樹が諦めなくていいってしつこく言うんじゃん」
「うん。諦めなかったらチャンスはあるかも」
「根拠なんてないだろ」
樹や北斗の言葉をばか正直に鵜呑みにしたわけじゃない。単純に俺が諦めきれなかっただけ。大我より一緒に過ごす時間は少ないけれど、毎日Aと話せる時間は楽しくて気持ちは消えることはなかった。
むしろ前より好きって気持ちが大きくなったかもしれない。
「大我には悪いって思ってるよ」
「なんで？別に高地が誰を好きだろうと京本には関係ないじゃん」
「それは、そうかもしれないけど」
「あー！高地と北斗！」
「慎太郎？あれ、慎太郎も短距離だった？」
「俺は代理。元々出る予定だった奴がケガしちゃってさ」
マジか、北斗だけじゃなく慎太郎もいるのか。とはいえ慎太郎は俺たちとは違うレースらしいから良かった。それにしても赤いハチマキが似合ってるな、とふと手首のリボンに目をやる。白地に赤いハイビスカス柄は佐伯の腕に付いていたものと同じだ。
「選手の人は出場レース順に並んでください」
「お、始まるね。じゃ、頑張ろうね！」
慎太郎は前の方の列に並びに行った。一応敵なのに応援するなんて慎太郎らしい。
放送がかかり１レース目が始まる。スタートの合図が響けば周りは歓声に包まれる。次は慎太郎が走る。スタートこそ遅れたけど、ぐんぐんスピードを上げて１番にゴールした。すごい、と北斗と共に拍手する。
あっという間に出番が来てスタートの体制をつくる。ふう、と息を吐いて目の前のゴールテープを見つめ一気に駆け出す。
「行けー！北斗！」
「こーちー！頑張れ！」
樹とジェシーの声がよく聞こえる。隣を走る北斗とは差はほとんどない。ゴールは目前、ヤバいかもって思った。
「優吾くん！」
「っ、しゃ！」
ほんの僅差で北斗に勝てた。息を整えながら“１”と書かれた列に並ぶ。
「愛の力は偉大だね」
「べ、別にそんなんじゃねえよ」
でも、きっとAの声が聞こえたから勝てたんだろうな。
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作者名：いか | 作成日時：2023年5月20日 19時
