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「大我くん」
「ごめん。腕痛かった？」
ごめんね、と謝る大我くんに大丈夫だよ、と返す。掴まれていた腕が離されて外気に当たって少し涼しく感じる。
昨日の帰り道に告白されて“お試し期間”と頭に着くお付き合いが始まった。松村くんが言ったように半ば強引ではあった気もするけど、大我くんを好きなのは変わらないから。この期間を経て大我くんか優吾くんか決めてほしい、と言われてしまった。
「北斗も知ってたんだね」
「なにが？」
「Aが、高地のことも好きなの」
「あー…うん。田中くんも知ってる」
「樹も？樹とも仲良かったっけ？」
「仲良しってわけじゃないけど、ちょっと相談に乗ってもらったというか」
まさか本人を目の前に内容なんて言えないけど、大我くんは詳しくは聞いて来なかった。きっと簡単に想像がついたのだろう。ちょっぴり不機嫌そうに頬を膨らましたりしてる姿は可愛らしくも見える。
「Aと付き合ったって言ったら高地驚くだろうね」
「サエの方が驚きそうだけど」
「あれ？言ってないの？佐伯に」
「うん」
「俺は話したよ？」
「え？」
「佐伯に協力してって頼んでたから。お試しだけどAと付き合えたよ、って報告した」
「そう、だったの？あ、だからサエ…」
やたらと大我くんをオススメしていたのはこういうことか、と納得していると学校に到着。玄関に入れば少しひんやりとした空気と静寂さに包まれる。教室には私たち以外誰も居ない。
「俺が今聞くのもあれだけどさ、本当に良かったの？」
「ん？ああ、お試しのこと？」
「うん。俺が押し通した部分も否めないし、でもやっぱやめるって言われるのも嫌なんだけど」
「やめるなんて言わないよ」
「本当？本当に俺のこと、好き？」
「好き、だよ」
バタン……
何かが床に落ちた音と誰かが廊下を走る音がして振り返る。けれどそこには誰も居なくて見覚えのある鞄だけ置かれていた。サッカーボールのキーホルダーが付いた優吾くんの鞄だとすぐにわかった。
つまり今の会話を聞かれていたということになる。
「聞かれちゃった、かな」
「そうだね。ちょっと俺追いかけてくるわ」
「でも、」
「今の時間なら高確率で北斗のとこだと思うし、高地にはちゃんと話しておきたいから」
待ってて、と頭を数回優しく撫でてくれてから大我くんは教室を出ていった。置き去りにされた鞄を机の上に乗せて私はただ時間が過ぎるのを待った。
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作者名：いか | 作成日時：2023年5月20日 19時
