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「大我帰らないの？」
「うん。これやってしまいたいから」
Aから借りたノートを振って見せれば高地の表情が少し変わる。わざわざAに借りなくたって高地でも他の男子でもいいのにAを選んだ。
理由は至極簡単、好きだから。
「やっぱり遠慮してんのは俺らしくないじゃん？」
「なに急に、」
「ちゃんと伝えてみるつもり、今日」
「は？え、今日？」
「善は急げって言うし」
高地に取られたくない気持ちもあるけど、なんとなく今言っておかないとダメだって思った。上手くいく保証なんてどこにもないし、正直自信なんてない。
「止めないの？」
「別に、俺が止める権利ないだろ」
でも、と高地は少し黙る。教室はいつの間にか俺ら２人だけになっていて時計の長針がカチ、と音を立てる。
「Aが嫌がることはしないで。それだけは、約束して」
「…わかってるよ」
「ん、じゃあ俺は帰る」
また明日、と高地は教室を出ていった。これからライバルが告白しようってのにあっさりしてたな。
「ライバル、か」
そんな対等な位置に俺は居るのかな。
部活が終わったであろう頃合いにAにメッセージを送ればわざわざ教室まで来てくれた。嬉しいけど柄にもなく緊張もする。
一緒に帰りたいと言ってAからお菓子を貰って、駅まで続く道を普段よりもゆっくり歩く。こんなに緊張するのはあの遊園地の帰り道ぶりだろうか。
「あのさ、Aに言いたいことがあって」
「私に？」
「うん。俺さ、Aに“勘違いしなくていい”って言ったの覚えてる？」
「あ…うん」
「嘘じゃないから。俺は、Aが好き」
立ち止まって真っ直ぐAを見てハッキリと伝えた。周りの景色も音も消えてしまったかのように目の前しか見えない。
「大我くん、気持ちは凄く嬉しい。私なんかを好きになってくれて…」
「私なんか、って言わないで。俺はA“が”好きなの」
「私、ズルいから」
「ん？」
「大我くんのこと好きだよ？だけど、」
「…高地も好き？」
小さく頷くAに胸が痛む。そっか、高地も好きなんだ。でも俺のことも好きって言ったよね？俺の聞き間違いじゃないよね？
「高地を好きでもいいから俺と付き合ってよ」
「え！？」
「俺のことも好きなんでしょ？」
「好き、だけど」
「だったら問題無い」
「え、あの大我くん？」
「高地よりも俺が好きって言わせてみせる。だからお試し期間ってことで俺と付き合ってよ」
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作者名：いか | 作成日時：2023年5月20日 19時
