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「A、今日帰りどっか行かないー？」
「駅前にタピオカ出来たらしいよ！」
「えー、Aカラオケ行こうよー！」
クラスメイトがそんなことを言いながら1人の女を取り囲む。その光景は最早見慣れたもので、囲まれているその女もニコニコといつもの如く笑顔を浮かべていた。
その女の名前はユクA。ガキの頃から見慣れた光景であっても相変わらずの五月蝿さに、俺もまたいつもの如く小さく舌打ちをした。
「タピオカもカラオケも行きたいんだけど、今日は予定あるの。ごめんね、また今度行こうね！」
WZ「予定ねぇ…」
誘いを断るためか、それとも本当に予定があるのかは知らないけど、Aのその言葉を聞きながら俺は机に突っ伏して、イヤホンを耳にはめた。
Aは昔から人気者だった。それはもう幼いころから、頭おかしいんじゃねえのってくらいいつも人に囲まれていて、俺から見たらウンザリする光景。ひとりの時間なんてどこにあるんだってくらいなのに、それでもAは嫌な顔ひとつせず周りに笑顔を振りまいていた。
良く言えば愛嬌があって愛想がいい。
悪く言えばただの八方美人。
WZ「よくやるね、マジで…」
俺はそんなAをいつも遠巻きに見ていたひとりで、別にその輪の中に混ざりたいと思ったことは一度もなかった。ぶっちゃけ俺は大人数で騒ぐのは得意ではないし、ひとりでゆっくり音楽を聴いている方が何倍も癒される。
後ろの方で騒いでいるうるさい声を遮断するように音楽のボリュームを上げて、目をつぶった。
「ジフナ」
今聞き終わったばかりの曲をリピートしようと顔を上げてスマホのプレイリストをいじっていた時、片方のイヤホンが外れてそんな声が俺の耳に届いた。
WZ「A…」
「また音楽聞いてるの？」
WZ「…おまえ、こっち来んなよ」
「何の曲？」
俺のイヤホンを外した人物を睨み上げれば、Aは動じることなくそのイヤホンを自分の耳にはめた。
Aがいなくなったからか、背後の五月蠅かった声は無くなって。それでもAはそんなことなんて気にする様子もなく俺のスマホを覗き込んだ。
「あ、セブチの曲…これ、Fearでしょ？私、この歌好き」
WZ「あっそ」
「ねえ、最初から流してよ」
最近出たばかりのセブチの新曲に、Aは嬉しそうに表情を緩めた。私のスマホにも入ってるよ、と笑いながら俺のイヤホンを返す気はない様子。
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作者名：緋夏
| 作成日時：2020年3月27日 15時
