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「実は昨日、矢巾くんと委員会の仕事のとき話してたんだけど、私詳しいことあんまり知らないなぁと思って。会話が成り立たないのも申し訳ないし、なおちゃんが知ってる範囲で教えてほしいなぁ、とか」
ちらり、と横目でなおちゃんを見ると、彼女はいそいそとカバンから何かを取り出していた。やがて全貌を表したそれは、何やら手帳のようなものである。
「えっと、バレー部ね……ちょっと待って」
ペラペラと早送りみたいにページを繰るなおちゃん。かつて存在だけは聞いたことがある。なおちゃんが学校生活で何か困ることがないように、ありとあらゆる情報をまとめている冊子があるのだと。おそらく実物を見たのははじめてだが、なるほど、使い込まれたハードカーバーから年季が伝わってくる。
「あった、バレー部！何年生から知りたい？」
この話し方から察するに、もしやバレー部は全員分まとめてあるのだろうか。久しぶりに彼女を末恐ろしく感じた瞬間であった。
先日の記憶を脳内でさかのぼる。図書カードに書かれた学年。確か松川先輩は、3年だったはずだ。
「それなら、3年生を」
「おっけー！ここのページを見てくれたらわかると思うわ」
ピン、と伸びた人差し指がとあるページを示す。
そのとき、吉か凶かわからないけれど、タイミングをはかったかのように予鈴が鳴り出した。
「えっ、もうこんな時間？じゃあこれ、Aちゃんに貸すね。あとで返してくれたらいいから！バレー部のとこは全部読んでも大丈夫」
素早くなおちゃんは自分の席に戻ってしまった。マシンガン並の速さで話されて返す間もなく、私の腕の中に手帳が取り残される。
他のページも気にならないとは言えない。しかし、これは信用問題に繋がりそうだ。ひとまず担任が来るまで、バレー部の部分だけを読んでみる。ぎこちない動作で指を手帳に差し込んでページをめくった途端、私は理解した。
アッ、これ見ちゃダメなやつだ。まだ3行も読んでいなかったけれど、慌てて手帳と目を閉じる。身長、せめて体重までは許容されるとして、す、スリーサイズはだめよ、なおちゃん。なんてものを友達に読ませようとしてるの。てかなんでそんな情報をあなたが握ってるのよ！
本日２回目の恐怖と戦慄を感じながら私はそっとカバンの中にそれをしまう。私が知りたいのは彼らの所見というか他人からの印象なので、心苦しくも返却致しますわよ。もう、混乱のせいで、自分の口調もわからなくなってしまいましてよ！
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作者名：わたぬき | 作成日時：2021年1月11日 23時
