月光と皇帝『この世界で』【野坂悠馬】 (ページ8)

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ミドウインと言う名ページ8

「ムーンカルト……だと？」

「そうです。知っての通り、キドウさんの国の宝と言われている石が必要なのです。」

「なるほど。あれは範囲の広い闇の魔力を打ち消すことが出来る。今回の計画に必要不可欠という事か……」

「はい。」

この石は確かに闇の魔力を打ち消すことが出来る。だが、それと同時に闇の魔力を持つものが使うと死は免れないだろう。そこでこの石を誰が使うか……僕を含め、チームメンバーは全員闇系の魔力の持ち主。それはキドウさん率いるセイショウ国も同じだ。
それでも誰かが使わなければならない。すでに覚悟は決まっている。

「この石は僕が使います。自分の手で終わらすために……」

「………そうかならわかった。その石については俺がなんとかしよう。だが、準備に一週間時間が掛かるがいいか?」

「はい。問題ありません。こちらも準備がありますので」

いま現段階の計画の進み具合を教え、僕はバルコニーに出た。夜の冷たい風が肌を刺激する。
そろそろ戻ろうとしたときに奥の方でアンナさんがしらない男に腕を掴まれているのが見えてしまった。
今度はふつふつと僕の中で湧き上がる嫌な感情。夜の静かな暗闇の中を僕はスカイウォークで音もなく彼女がいる所に向かった。

「アンナ嬢これから俺らと二人だけで楽しい事しませんか？」

「いえ……けっこうですから放して下さい」

「へぇーたのしいこと……ねぇそれ、僕も参加してもいいかな？」

僕はアンナさんを誑かしている男共に「国同士の縁を切ることもできる」と脅すと面白いほどに顔を青くしてアンナさんを突き飛ばした。僕は予想はしていたので突き飛ばされて体制を崩したアンナさんを抱きかかえ「大丈夫？アンナさん」と、声をかける。すると彼女が突然こんなことを言った。

「ええ……大丈夫よ。ねぇ、野坂君。……貴方の本当の名前はミドウイン・ユウマじゃないの?」

彼女に気付かれた。この際仕方ない。

「……そうだよ。僕はミドウイン・ユウマ。この国の王子。」

そのことを言った瞬間アンナさんは悲しそうな顔をした。違う。僕は彼女にそんな顔をしてほしかった訳じゃない。
この名前は僕が王子になる前の名前で、元々僕は王子では無かった。お妃様に子供が生まれず、仕方なく養子だった僕が王子となり名前がノサカからミドウインに変わったのだ。僕が今の名前を教えなかったのは彼女だけには本当の僕でいたかったから……でも結果的に悲しませてしまった。