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カーテンから差し込む眩い光に起こされ、目を開ける。
昨晩は帰宅するなり、慣れない座敷を歩いて風呂場に行き、すぐさま体を流した。
タオルで拭いたものの、海水がベタベタして気持ちが悪かったというのもあるが、昔からの習慣なのでほとんど無意識だったような気がする。
窓の外を眺めると、海は私を見てと言わんばかりに輝いていた。
昨日の静かで淑女のような雰囲気はどこにもなかった。
ほんまにAが居たんかさえも、曖昧になりそうや。
もしかしたら、イマジナリーフレンドってやつかも知れん。
将来に迷って、心を病んだ結果生まれた、自分の中だけの存在…ありえないと言い切れないところが恐ろしい。
でもきっと、彼は本物やと思う。
根拠はないし、昨日の記憶が確かかどうかも、眠ってしまった以上分からない。
今夜、彼が夜の海に来るかどうかさえも。
嘘であっても、彼の存在を否定したくはない。
嘘だとしても構わないと思う。
俺だけしか知らない存在になるのなら、それもまた一興だと思った。
「なんかきも、俺」
勉強しすぎて頭おかしくなったんやろか。
爆発した髪を抑えながら、居間に向かう。
にしてもこの時代に、この歳になっても、この場所でまた明日、なんていうことがあるとは。
小学生に戻ったみたいや。
スマホを持つと、連絡先を交換して、どれだけ離れていてもふとした時にメールを送って意思疎通を図れてしまう。
卒業式があまり悲しくないのも、こういうことが原因なのかもしれない。
彼だけなのかもしれないけれど、コンピュータよりも自然に重きを置いているこの街が、ものすごく暖かく感じる。
無意味に焦る必要のない、この優しさがひどく染みた。
「頭から離れへんなぁ」
Aのことをずっと考えている。
家に帰ってきてから、眠るまでもずっとそうやったし。
Aのふわりと微笑む表情、からかったような表情。
愛おしさを感じるとともに、哀しさも覚える。
この街では夜に抜け出すなんて粋なことなんかも知れへんけどさ。
ときおり思いつめような顔するんはなんでなん、A。
Aの中に何がおるの。
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ひるた(プロフ) - 暑苦しくて愛おしい夏が始まりますね〜🌻 (6月18日 11時) (レス) id: d618c40589 (このIDを非表示/違反報告)
にこち(プロフ) - 今年も夏始まりますね🔅 (6月18日 2時) (レス) @page45 id: 7ce575ffce (このIDを非表示/違反報告)
ひるた(プロフ) - にこちさん» にこちさん…!毎度ありがとうございます😭心に残る作品になりますよう、善処いたします! (2023年3月20日 0時) (レス) @page13 id: d618c40589 (このIDを非表示/違反報告)
にこち(プロフ) - 新作おめでとうございます!!どんなお話になるのか、作品を見かけた時からワクワクしてます! (2023年3月19日 21時) (レス) id: 7ce575ffce (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ひるた | 作成日時:2023年3月12日 22時