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意外なことに、屋上を利用する悪ガキがもうひとり身近にいたようだ。
この学校は屋上が封鎖されていて、中に入ることができなくなっているが、裏ルートを使えば、行けてしまう構造だった。ちょっとばかし、危ないんやけど。
「俺が歌って名原はいいことあるん、やろか？」
「そりゃあもう。いいことづくし。
桐山くんの声って、すごく伸びやかで耳触りがいいの。
そうだね、例えるなら、レースのカーテン。
優しく包み込んでくれる暖かさがある」
急に俺の歌声について熱弁するものだから、また拍子抜けしてしまう。
いきなりあらわれた不思議な同級生が、俺の歌声を絶賛する。非現実的で、漫画的だ。
「…あぁ、それでね。つまり、
僕の創作活動に活かしたくて」
「それって、名原がいつも持ってるノートのやつ？」
「おぉ、そうそう。よく知ってるね。
僕は作詞してるんだ。桐山くんの歌声を聞いたらなんだか作詞がしたくなってね。
スランプ中の芸術家にはありがたい存在なんだよ」
なにやらよくわからないことを言っているが、俺の歌声を聞けば趣味が捗るというわけか。
確かに、趣味が滞っているということなら、俺に頼み事をしても不思議な話ではない。
…不思議な話ではあるんやけど。同情や、これは。
「なら、俺にもメリットがないとな〜」
「そうだなぁ、ミルクティーを一本プレゼントしようかな」
「えー、ミルクティーかぁ。うーん、もう一声」
「あたたかいミルクティー！」
「温度は関係あらへんやろ(笑)」
いつもの癖で友達につっこむように言ってしまった。
でも彼は何も驚くことはなく、えー、と財布とにらめっこしながら頭を掻いていた。
たぶん、この日からや。
不思議な名原くんから、面白い名原くんに変わったのは。
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作者名：ひるた | 作成日時：2023年1月28日 1時
