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昼間に女の子に言われた言葉を脳内で反芻させた。
恋愛的に好きもなにも、あいつをそういう対象として見れへんっていうか。
Aのことは好きや。大好きやけど、俺が好きになったとて、俺とAが釣り合う訳がないねん。
あんな中身も外見も整ってて、繊細で、脆い人と、俺が。
ないない。ありえんわ。
俺は神様の隣で、ずっと神様を眺めたいだけなんよ。
ほら、神様に恋をする人間なんておらんやろ。
Aは愛だのなんだの、深そうな訳分からんことはよく言うてるけど、学生がするような浮かれた話は一切しない。
あとで聞いてみよ、と帰り道で思っていたことを、Aとの夕食で思い出した。
テレビで恋愛ドラマのCMが流れたから。
「なあ、Aって好きなタイプってあるん?」
「なに急に、どうしたの」
「Aの口から恋バナとか聞いたことないから、気になってん」
Aは食事をする手を止めてまで、考え出した。
少し頭をひねってから、俺を見つめて、
「…大きな腕で抱きしめてくれるひと」
とだけ言った。
「なんやそれ」
「それだけ、かな」
「そんなんなら、俺でもできるやん」
可愛い人、だとか面白い人、だとか優しい人、だとかそんな定番なものを挙げてくるものだとばかり思っていたから、おかしくてつい口説くように言ってしまった。
「照史くんが僕の恋人に立候補してくれるんだ?」
「今のは完全に俺の言い方が悪かったわ…」
Aは手を口にかざして淑やかに笑った。
笑い者にされた。自らされに行ったのだ。
「いや、もっとこう、具体的なものが出るかと思ってたから…。大きな腕で抱きしめてくれるひと、なんて初めて聞いたもん」
「まあ、これは詩的表現だよね。
でもそういうことなんだよ。僕を抱きしめてくれるひと」
んー、やっぱりAの語彙には癖がある。
Aに理解を示し、なおかつ抱きしめるように愛してくれる人、やろか、ざっとまとめると。
…いや、俺おるやん。俺でええやん。
「照史くん、不満そうだね」
「んや、俺やったらあかんのかなーって
俺が一番Aのこと理解してると思うし」
「…まあ、うん、そうだね」
珍しくAは狼狽えていた。
いつもの優しく余裕があるように見える素振りは今は全く無かった。
「随分、洒落たことを言うんだね
少女漫画にでもハマってるのかな」
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作者名:ひるた | 作成日時:2023年1月28日 1時