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彼女を誘拐してきた日。俺は早々に彼女を抱いた。
嫌がって泣きじゃくっていたが、それも含めてすべてが愛おしくて。
嬉しかった。一生をかけても手に入らないと思っていた彼女が、俺の腕の中にいる。
彼女がどれだけ嫌がろうが、その事実は変わらない。
ただ行為中に「祥彰くん」と連呼していたのには嫉妬した。
彼女の頭がおかしくなって俺のことを山本だと勘違いしていた訳では無い。
「嫌だ」「助けて」とも言っていたから、助けを求めていたのだろう。
そんな切な願い、叶うはずもないのに。
ちなみに山本はというと、急に連絡が取れなくなり、家に行っても居ない、出勤もしてこない、そんな彼女を心配している。
俺は上手く奴のことを丸めた、きっと何も気がついていない。
馬鹿め。と心の中で毒づく。
さて、今日も仕事が終わった。彼女の元へ帰ろう。
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あれから1ヶ月が経った。
私はあの部屋以外にも行けるようになった。
あの人が不在の間、あの部屋にしか居れないとなると色々不便だから。
そしてこの期間は私を絶望させるには十分だった。
最初は抵抗していたそれも、毎日され続ければなんとも思わなくなる。
スマホは取り上げられていて、テレビはコードが隠されていて、パソコンはパスワードが分からない。情報が全く入ってこない。
毎日コンビニで買ってこられる菓子パンやおにぎりを食べていると、食事も楽しく感じない。
地獄のような環境にもう慣れてしまったのかもしれない。
でもまだ警察や祥彰くんが助けに来てくれるんじゃないかとか、明日は帰してくれるんじゃないかとか、少し希望も持っている。
ガチャ。
玄関のドアが開いた時、期待するのももう疲れてきたけど。
「ただいま、A」
「…おかえりなさい」
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洗脳が上手くいった。
彼女が俺を求め、愛の言葉を放つ様になった。
「拓司くん、愛してる」
半年前のことを思えば想像もつかない。
嗚呼、やっとここまできた。
これで彼女に愛して貰え、愛し返すことができる。
言葉だけじゃない、心も体も俺のもの。
彼女が死んだら俺も死ぬし、俺が死んだら彼女も死ぬだろう。なんて幸せ。
「俺も愛してる」
君が居なきゃ生きてけない、共依存。
一種の中毒だ。
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作者名:ヱ崎 | 作成日時:2022年11月1日 16時