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「ごめん、起こしちゃって」
これ以上嬉しさに浸りすぎると、元の世界に帰って来られないきがして。
無理矢理現実に戻り、彼女に起こしてしまったことを謝る。
すると、彼女はまだ眠そうな声で、全然大丈夫ですと言った。
この居心地が良いのか悪いのか分からない空間に沈黙が流れる。
僕は耐えきれず、部屋を出ようと立ち上がった。
引き止められたいなんて思っても、現実そう上手くはいかず、その日は仕事に明け暮れた。
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あの日の彼の言葉が頭から離れない。
誰もいない部屋で仮眠を取っていると、誰かが近づいてくる足音で目が覚めた。
起きるタイミングを完全に見失った私は寝たフリをした。
すると「好き」という河村さんの声が聞こえて、髪を撫でられて。
びっくりした私はそこで起きたフリをして、河村さんに理由を聞こうと思ったのだが。
彼の私を見る、愛おしそうな視線に何も言えなかった。
私は人の感情に疎くなんかない。寧ろ聡い。
あれは確実に勘違いじゃない。河村さんは私が好きなのだろう。
薄々気がついてはいたが、気が付かないフリをしていた。
気がついてしまっても、彼の想いに応えることは出来ないから。
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あれから一週間。確実に避けられている。
話しかけても目線は合わないし、すぐに話を終わらせたがるし、隣なんかに座ったものなら席を立たれる。
嫌われた。そんな言葉が頭を過ぎる。
もしかしたら「好き」と言ったのが聞こえていたのだろうか。
好きでもない異性からの好意は確かに嫌かもしれない。
でもここで手を引ける程軽くない。
僕は諦めずに話しかけることにした。
しかし、それから四日後。
「何ですか!毎日毎日!迷惑極まりない!」
オフィスに響き渡る凛とした声で、彼女は言った。
他のスタッフが何だ何だと、ザワザワし出す。
僕はとうとう本当に嫌われたのだろうと思い、それ以来話しかけるのをやめた。
彼女も僕への業務連絡は他の誰かを通してするようになった。
神様からの仕打ちだと思った。僕の日頃の行いが悪かったのだと。
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作者名:ヱ崎 | 作成日時:2022年11月1日 16時