18 ページ18
「……
「、お前たちが襲撃した雄英高校だ。……まさか知らんとは言わせんぞ」
イレイザーヘッドは一瞬言葉に詰まったが、すぐ自分の言葉不足を理解して補足した。
言外に含みを持たせたそれは、大怪我により全身を包帯で埋めつくし、後遺症の可能性も告げられた彼のささやかな意趣返しだ。
しかしAは雄英を知らなかった。
「先生」が教えてくれた事柄にそれは含まれていなかったからだ。
けれどイレイザーヘッドの言葉から推察することはできた。
あのときはオールマイトを屠ることしか頭になかったが、そうか、あそこは、
「学校だったのか……」
小さく言葉が漏れ出す。
道理で大勢子供がいたわけだ。と、Aは一人で納得した。
そして襲撃時の記憶から連鎖的に思い出したのは、最後に己を突き飛ばしたあの男の子のこと。
「──あの男の子に、会いたい」
ぽつり、と、口をついて出た。
先程やりたいことを問われたときにはなにも思い付かなかったのに、頭に浮かんだ途端、会いたいと思った。
「……そいつの名前は？」
そう、会って、訊きたいことがある。
「知りません。けど、必死な顔をした雄英の子供……だと……思います」
イレイザーヘッドはふむ、と一息吐くとこう言った。
「あの場に居た奴ってことか。わかった、なんか面会の機会を考えてみよう。他には？」
「……なにもありません」
「そうか。じゃあ異論はないってことで保護の準備を進める」
今日はこれだけだ、と会話を締めたイレイザーヘッドはさっさと病室を出ていった。
Aに見舞い客などいないので部屋に差し入れの類はなく、また私物もない。
あるのは目覚めた日には何もなかった棚に置いてあるごくわずかな歯ブラシなどの支給品だけだ。
Aの目に陰影以外の色らしき濃淡を見付けられない、恐らく白一色の部屋は暖かい日を受けて明るい。
風呂に入れてもらって、清潔な病衣を着せてもらった。
Aについこの間までのどれが何の汚れかもわからないようなみすぼらしさはもうない。
自分から病室と同じ清潔感と暖かさを感じるのに、それがどこまでも異質だとも感じていた。
綺麗な所に恐ろしく場違いな己という汚物が紛れてしまっていることの違和感は、いつまでも慣れることなくAの胸のなかで気持ち悪く渦巻いている。
無意識に胸に手を当てていたAは、その不快感を除きたくて服ごと肉を抉った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 83人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
詞葉(プロフ) - 蓮さん» コメントありがとうございます。とても嬉しいです！ 何分遅筆なものでお待たせすると思いますが、是非よろしくお願いします。 (2020年3月12日 12時) (
レス) id: dc1dd40e5c (このIDを非表示/違反報告)
蓮(プロフ) - とても面白いです…！更新楽しみにしてます！ (2020年3月11日 1時) (レス) id: 0d837f5408 (このIDを非表示/違反報告)
詞葉(プロフ) - 桜猫さん» コメントありがとうございます。ちょっと迷走しつつあるので気長にお待ちいただければと思います。いただいたコメントでモチベ上げて頑張りますね！ (2019年9月2日 23時) (レス) id: df44a89d14 (このIDを非表示/違反報告)
桜猫(プロフ) - 夢主ちゃんの今後が気になりますな… (2019年9月2日 17時) (レス) id: b3a762d464 (このIDを非表示/違反報告)
詞葉(プロフ) - ルーさん» コメントありがとうございます。とても嬉しいです！ 仕事の合間にぽちぽちするのでゆっくりになりますが、ハピエン厨なのでそうしたいと思っています。 (2018年2月8日 17時) (レス) id: 703ce966a6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：詞葉 | 作成日時：2017年10月7日 13時
