リトル・ヒアー III (ページ38)

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颯太｢…わくも、ちゃんとがんばってるよ。｣

｢…うん。｣

心配そうに隣からわたしを見つめる颯太に、そんな風に眉なんか下げないでって
わたしは大丈夫だよって、今度はちゃんと笑って見せた。

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高校を卒業して、3人それぞれ違う道へと進んだあの頃の春は

人生の中で1番不安で、ドキドキして、毎日が寂しかった。

偏差値の高い大学を受験して合格した颯太と、就きたい職業のためにと選んだ大学へ進んだわたし。

それから、

颯太｢え？！わくも受験するの？！｣

湧｢おー、…ってお前らのその顔なに｣

まさかのわくも大学へ進む、と帰り道に聞いて
颯太と2人で目を見開いた。

颯太｢え、どこ受けるの？｣

湧｢隣の市のM大。おれも勉強がんばんねーとなー｣

その言葉通り、きっとこれまでの人生で1番勉強をしたわく(颯太がつきっきりで教えてくれた)は見事合格して
進学と共にひとり暮らしをはじめた。

会う時間は減ったけど、隣の市なこともあって休みの日に電車に乗ってわくのところに行くこともしばしば。

週末のご褒美だって思えば、大学もがんばれた。

けど、今は

颯太｢この前営業成績上がったらしいよ、わく。

わくもスーツ着てるのかー。見てみたいなおれ｣

｢そうだね(笑)｣

ひとりだけ、わくは地元でも隣の市でもなくて
隣の県で仕事をしている。

楽しそうに話す颯太の顔を見れば、離れててもずっと大切なのが伝わってきて
なんだか少しだけ、元気を分けてもらった気分。

知らないうちに行動しづらい世の中になってしまったのが社会人になった頃。
そのせいで、わくとはずっと会えていない。

かろうじて連絡手段のラインも、お互い忙しいせいか最近は返事が何日かおきだし
わたしが毎晩寝落ちしてしまうせいで、電話もできていない。

離れている距離を埋められない日々の流れが、どうも苦しくて

だいすきな気持ちは変わらないし、わくのことだって信じてはいるけど…どこか怖がっている自分がいる。

颯太｢わく言ってたよ、Aに会いたーいって｣

｢、｣

不意に、それを聞いただけで泣きそうになってしまった。

わざわざそれを伝えてくるなんて、やっぱり颯太には全部見透かされちゃってるね。

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