第37話-厚意 ページ39
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午後一時、鼓膜を叩きつけられるようなサイレンが鳴っていた。
「梅川君、コーヒーはいるかい？」
澤田先輩が両手に持っていた缶コーヒーの一つを、そっと俺に差し出した。
「ありがとうございます。頂きます」
ポケットから財布を取り出そうとした俺の手に、缶コーヒーを添えた。
「お代は要らないよ。ただの差し入れだからね」
「そうですか･･････では、お言葉に甘えさせて頂きます」
俺は手に置かれた温かい缶コーヒーを、ありがたく頂くことにした。
「相変わらずこの街は物騒だねえ。近年は特に、規模が大きい事件ばかりだよ」
「そうですね。他の地域に比べて、ここは出動要請が多いようですし･･････あ」
そんな話をしていると、交番の無線機に応援要請が入った。
「じゃあ、梅川君はここで待機していてくれ」
パトカーに乗り込む澤田先輩達の背中を見送り、俺は飲みかけの缶コーヒーを一気に飲み干した。
「相変わらず、か」
平和の綻びを象徴する警告音は、この街で日常の一部となっている。
「･･････」
もう何万回と聞き続けてきたその音は、一体いつになったら止んでくれるのだろうか。
「お仕事お疲れ様、Aちゃん」
自宅アパートの前に、紙袋を持った研ちゃんがいた。
「おお、研ちゃん。お疲れさん」
いつも一緒の陣平の姿が、今日はなかった。
「陣平ちゃんは来てないよ」
「そうか、珍しいな」
「ははっ、そうだよ。今日は珍しく抜け駆けしちゃおうかな〜なんて」
研ちゃんはそう言って、持っていた袋を俺に手渡した。
「差し入れ。一緒に食べようよ」
部屋に入ると、俺は二人分のインスタントコーヒーを淹れた。
「わざわざありがとうな、研ちゃん」
研ちゃんが持ってきてくれたのは、最近駅前にオープンした大人気ケーキ屋の苺タルトだった。
──抜け駆けする気なんて、元々なかっただろうに。
箱の中には、美味しそうな苺タルトが三つ入っていたのだから。
「並んだだろ？ここのケーキ、テレビでも紹介されてたし」
たまたま眺めていたスイーツ特集で知ったのだが、今日まで食べるタイミングを逃していた。
「まあね〜。でも、そんな事はノープロブレムだって。俺はAちゃんが喜ぶ顔が見れるなら、何時間待ったって構わないぜ？」
研ちゃんは得意げな顔で、軽くウィンクをした。
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作者名：猫饅頭。 | 作成日時：2023年5月23日 3時
