第28話-不幸は再び ページ30
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──11月7日。
研ちゃんが殉職してから、三年という月日が経った。
俺は警察署にいた。
一人の警官に連れられて、俺と千速は薄暗い廊下を歩いていた。
長い廊下を進むと、ある一室に案内された。
その部屋の中には、二名の警察官・・・・・・そして、黒いソレがキャスター付きの台に乗せられていた。
「・・・・・・」
俺はソレを、ただ呆然と見ていた。黒い、動かない、ソレを。
「──こちらで、見ない方がいい状態だと判断した」
警察官は、黒いソレに目を向けた。
「・・・・・・損傷が激しかったそうだ」
「損、傷・・・・・・」
何の話をしているのか、俺は分かりたくなどない。
「爆弾解体中の事件だった。現場は狭い密室空間で、激しい衝撃を受けたことが原因と聞いている」
聞きたくない、そんな気持ちを裏切るかのように、警察官の言葉が耳にはいってきた。
「──松田刑事は、最期まで市民を守る為に尽力していた」
頭を鈍器で殴られたような感覚が、俺を襲った。
「・・・・・・らない、まだ」
俺はおぼつかない足取りで、その前へと歩を進めた。
「──ッ!!」
黒いソレに手を伸ばそうとした俺の肩に、誰かの手が置かれた。
「ち、はや・・・・・・」
後ろを振り向くと、千速は俺を見つめていた。
──どうして止めるんだよ、千速。・・・・・・だって、確認、しないと分からないじゃないか。
目の前のソレが、陣平ではないという事を確認する必要がある。
──陣平、じゃないって・・・・・・。
そう否定しなければ、ならないのに。
「──A ・・・・・・」
千速は俺の名前を呼び、そっと顔を横振った。
「っ、・・・・・・」
黒い納体袋の形は、決して整っているとは言えない程に崩れていた。
──こんなのって、ないだろ。
当時の状況が、実に悲惨であったという事を物語っていた。
──仇を討つって、言ってたじゃないか。
最後に陣平の顔を見たのは、声を聞いたのは、二年以上も前のことだ。
「もう一度、声を聞かせてくれよ」
──馬鹿野郎って、ウザい奴だって、暴言でも何でも笑って許すから・・・・・・。
「──陣平ッ・・・・・・!」
もう二度と動くことのない納体袋の側には、粉々になった携帯電話と、黒焦げになった小さな欠片だけが残されていた。
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作者名:猫饅頭。 | 作成日時:2023年5月23日 3時