第26話-埋まらぬ溝 ページ28
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陣平と最後に話した日から、数年の月日が経った。
俺は陣平と話すために、家にも行ったし、電話も掛けたし、メールも何度だって送った。
俺がどんな言葉を掛けても、陣平は『俺にもう関わるな』と、それ以外の言葉を発してはくれなかった。
そして仕舞いには、部屋まで押し掛けてくる俺を徹底的に避けるためか、前借りていたアパートから引越しをしてしまった。
それが何年も続いてしまっている今、俺の力で決意を固めた陣平を変える事ができないと思うようになっていた。
「まったく・・・・・・辛気臭い顔だな、A。ちゃんと飯食っているのか?」
ファミレスで向かいに座る千速は、俺の顔をじっと見つめていた。
「食べてるよ、朝昼晩三食きっちりと。最近は油物が減ったくらいだ」
「へえ、そうか。その割に、死んだ魚のような目をしているぞ」
コップの水に映る俺の顔は、確かに死んだ目をしているような気がした。
「酷いな、俺は元々こんな目だっただろ」
自嘲気味に笑った俺に対して、千速は眉を顰めた。
「──違うな、君はもっと力強い目をしていた。私のように」
「それは買い被りすぎだ、千速」
君のように強くいたいと思うのに、俺は未だに全てを引きずって、前を向いていないのだ。
「・・・・・・」
「あのさ、元気か?・・・・・・陣平」
「いい加減、自分で聞けば良いものを」
俺の態度に気を悪くしたのか、千速は少し素っ気なかった。
「千速、意地悪言わないでくれよ。・・・・・・俺じゃあ、陣平は教えてくれないからさ」
仇打ちの為に生きると言っていた陣平が、無理をしないわけがない事は明らかだ。
けれど、俺は陣平を手助けする事も、会うことも、話すことも、心配することすら・・・・・・彼は許してくれなかった。
「千速は、陣平と連絡を取ってるんだろう?──どうしてるかだけ、それだけ聞ければそれで良いんだ」
そんな俺の懇願に、千速は短く溜め息を吐いた。
「・・・・・・アイツは、相変わらず無茶ばかりしているよ。それらしい話も、よく耳にするからな。まあ、アイツの無茶癖は昔から変わらないが・・・・・・少なくとも、Aより元気だよ」
「そうか、それなら良いんだ」
それが聞けて、俺は少しだけ心が温かくなった。
「──本当に馬鹿な奴だな、君も・・・・・・も」
千速の言葉の最後は、周囲の声でかき消されて聞こえなかった。
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作者名:猫饅頭。 | 作成日時:2023年5月23日 3時