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第21話-酔いのせい  Side:萩原 ページ23

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 床には空になった酒瓶が数本、机の上にはその酒が並々に注がれたコップと開封されたツマミが散乱していた。


 三人の中で一番多く飲んでいた陣平ちゃんは、ベッドの上で漫画を読んでいる途中に眠ってしまっていた。


「陣平ちゃん、寝ちゃったね」


「そうだな、今まで見た中で一番飲んでた」


 残された俺とAちゃんは、残されたツマミを少しずつ摘んでいた。


──Aちゃんは、相変わらず酒に強いな。


 Aちゃんが酒に酔っているのを見たことは、一度もない。本人曰く姉ちゃん程の酒豪ではないと、言っていたが酒に強いことには間違いない。


「俺・・・・・・少し酔ったかも」


 そういって、酔った振りをする女の子みたいに、俺はAちゃんの肩に軽く頭を乗せてみた。


「ん?珍しいな、研ちゃん。飲み過ぎたか?」


 Aちゃんは、俺の背中を優しくさすってくれた。


──好きだな、こういうところ。


 誠実で優しくて、格好良くて、安心感のある男なんて、世間の女の子が放って置きたくないだろう。


「水、取って来ようか?」


 立ち上がろうとしたAちゃんの肩を、軽く俺の方へ引き寄せた。


「いいよ、このままで・・・・・・、このままがいいな」


「お、おう」


 普段は女の子に言われる台詞なのだが、それほどに今日の俺はいつも以上に甘えたいという感情に支配されていた。


──陣平ちゃんには悪いけど、今だけはいいよな・・・・・・俺も甘えてさ。


 最低な男と思われてしまうかもしれないが、今なら酔っていることを理由にしてしまえる。


 俺はAちゃんの方へ身体を傾けた。


「研ちゃんも、いつもお疲れさん」


 春風のように穏やかな声で俺の名前を呼ぶこの人の事を、俺はずっと昔から愛しく感じている。


「ははっ、・・・・・・Aちゃん、そんなに甘えさせてくれたら、もっと好きになっちゃうだろ〜」


 女の子とは違う、Aちゃんのしっかりと筋肉の付いた身体を、俺は両腕で包み込んでいた。


「本格的に酔ってるなあ、研ちゃん。酔って女の子にこんな事したら駄目だぞ」


「しないよ〜、Aちゃんだけだよ」


 俺がそう呟くと、Aちゃんは無邪気な顔で笑った。


「ははっ、それは兄貴分冥利に尽きるな。でも、そういう口説き文句は俺じゃなくて、好きな子に使ってあげてくれ」


「・・・・・・」


 俺の渾身の口説き文句は、結果的に酔いのせいにされてしまった。



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作者名:猫饅頭。 | 作成日時:2023年5月23日 3時

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