第30話-深海に沈んだ記憶 ページ32
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「組織の時の事以外は思い出せないんだろ?」
「ああ・・・・・・組織にいた以前の記憶は、まだ思い出せないが・・・・・・。それ以外の記憶は、大方戻ってると思ってくれていい」
つまり、俺と出会ったあの頃や、約束を交わしたあの時の記憶については戻っていないということだろう。
──あの野郎のことは、全部思い出してるっていうのに・・・・・・。
「──そうか、よかったんじゃないのか?戻ってほしかったんだろ、記憶」
「まあな・・・・・・、早い段階で戻って手間が省けた」
俺には最悪に都合が悪いことでしかないのだが、相棒は水を得た魚の様に興奮していた。
──ああ・・・・・・、都合よく俺の記憶だけ蘇ってくれてたなら良かったのに。
無意識に俺は、耳に付けたシルバーピアスを指先で触れていた。ピアスは海水で少し錆びてしまったのか、表面が少しざらついていた。
──相棒で・・・・・・『兄弟』っていうのによ。
今の俺は、ただの相棒だ。
──全く、俺が何をしたっていうんだよ・・・・・・。
「この無人島は、前に行ったバーのマスターが所有しているって言ってたよな?」
「そうだよ、あの日・・・・・・俺が彼に頼んで、船と逃亡先の場所を手配させたんだ」
あのまま相棒が助からなかったのなら、俺も共に海底へ沈んでいた。
「だけど、それがどうしたんだ?正式に紹介でもしてほしいのか?」
相棒は伏していた目を開くと、俺をじっと見据えた。
「──・・・・・・明日、船を出して欲しい」
「・・・・・・船出して?それで、何をするつもりなんだ?」
「──組織を、──あのクソ野郎・・・・・・ジンを殺しに行く」
──またジン、ジン・・・・・・そんなに野郎が気になるのか?俺の相棒は。
「ジンを殺しに行く?ハハッ、組織もすでに俺達が死んだと思ってて・・・・・・仲間だった相棒を使い捨てたこの状況で、誰も救ってくれないこの状況で・・・・・・それでも、アイツを殺しに行くのか?」
──あの男は、ピンガが生きていると知ったら迷いなく消そうとする。
「ジンに、・・・・・・組織の人間に見つかったら消されるぜ?」
そんな未来が見え透いているのに、俺が黙って何もしないなんてことは有り得ない。
「当然だろうな、だが・・・・・・ジンは殺した人間を忘れる習性があるイカレた野郎だ。むしろ殺すなら都合が良いだろ」
「・・・・・・」
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作者名:猫饅頭。 | 作成日時:2023年4月29日 2時