第18話-意思 ページ20
＊＊
──うそ、嘘だろ･･････、ウソだ！！
動かない相棒の姿に、心臓が切り裂かれる様な衝撃が走る。
俺は辛うじて動く左手でピンガの脈を確認する。
「──っ･･････」
ピンガの脈は、動いていた。
それならば、例えそうでなくても･･････俺がすることは決まっている。
──絶対･･････、助けてやるッ！！
俺は左腕でピンガの肩を抱え、ほとんど使い物にならなくなった右腕を添えた。
そして、俺達は静かに海上へと浮上して行く。
幸い足の骨は指の骨折程度で済んでいた。動かす度にかなりの激痛は走るが、泳げない程の耐えられない痛みではない。
相棒が──ピンガが助かるなら、俺の骨の10本や20本･･････砕け散ったって構わない。
「･･････っ、･･････」
──馬鹿な奴だって、思うだろうなぁ･･････。
全身の骨が砕け散ったってくらいの怪我してるのに、このまま沈んだ方が楽なのに･･････まだ今も生きるためにもがいている。
──自己犠牲なんて、くだらねえって･･････きっと言うんだろうけどさ。
相棒と出会った時、俺は知ってしまったんだ。
──ピンガの居ない日常なんて、退屈で死んじまうって。
明るい未来がなくたっていい、地獄の底でもがき苦しんだって、相棒さえ居てくれれば･･････退屈しない。
──だから･･････俺を退屈にさせないでくれよ、兄弟。
海岸の何処かに上陸した俺は、冷たい相棒の身体を離さないように肩に抱えていた。
偶然にも存在していた波で削られた岩場の窪みに、俺と相棒の身体を滑り込ませた。
中は少々狭いが、入り口が小さいおかげで海風からは守ってくれそうだ。
──くそ寒い･･････。
風からは守られているとはいえ、長時間冷たい海水に浸かっていたおかげで低体温症になりかけているようだった。
「──相棒･･････悪いな」
俺はウェットスーツを片手で何とか脱いで水着姿になると、相棒も同様に脱がしていく。
「･･････」
全身傷だらけになった相棒の身体が露わになって、やり切れない気持ちになる。
俺は冷たい背中を壁に押し付けて、ピンガの身体を抱きしめる。
「──こんな状況でしたってよ、･･････虚しいだけだぜ」
誰も答えない独り言を呟くことしかできなかった。
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作者名：猫饅頭。 | 作成日時：2023年4月29日 2時
