子狐の密かな告白。 ページ4
「…鬼灯様は結婚しないんですか?」
Aの質問に鬼灯は咀嚼していた粥を飲みこみ、
「今は考えていないですね」
と答えてまた一口粥を運んだ。
息苦しさと全身の熱さで寝苦しさを感じていた鬼灯は額にひんやりとした物が乗って、
薄っすらと意識が戻る。
暗闇の中にいる人物に声をかけた。
「Aさん、帰っていなかったんですか?鍵は…」
「樒さんの部屋に泊まらせてもらいました。今様子を見に来たんです
部屋の鍵はかかってなかったです。体調悪くてかけれなかったんでしょう」
額の上に乗る冷たいものはAが布巾を新しく濡らしてくれたのだと悟った。
「ご迷惑おかけしてしまいすみません」
「私が好きでしてるんです。…昔からお世話になってばかりですから」
Aの手がサラリサラリと鬼灯の頭を撫で、髪がその小さな手を通り抜ける。
「小さい頃、こうして熱が出た時に桃タローや白澤様がよく頭を撫でて傍にいてくれました。
頭を撫でられると不思議と落ち着くんですよ」
撫でている方とは反対の手で濡らしたタオルで鬼灯の首元や顔の汗を拭った。
「大丈夫です。明日にはきっと熱が下がっていますよ」
汗を拭い終わった時、
苦しそうに息をするその顔を見てAの瞳から一粒涙が零れ落ちる。
「…私が嫁いではダメですか?
貴方がこうして苦しそうにしている時にずっとお傍についていたい」
寝息をたてるその相手から答えが返ってくるはずはない。
「寝ているとわかっているから言うなんて。すごく卑怯でごめんなさい」
鬼灯の匂いが染みついたその布団に顔をうずめ、また一粒涙が零れた。
「ん…」
目を覚ました鬼灯は時計の時刻で明け方である事を知り、
身体を起こせば一日中寝ていたせいで多少の鈍りはあるものの
気だるさはなく熱も下がっているようであった。
布団の上に置かれている小さな手に気づき、その元を辿るとAが頭と腕をベットの上に乗せて伏せている状態で眠っていた。
「嫁入り前の娘が男性の部屋で一夜を明かすなと言ったのに…」
鬼灯は布団の上にかけておいた自分の着物をAにかける。
薄れゆく意識の中で
彼女が改めて愛され、大事にされて育ってきたか実感した。
過去の幼い自分にも
こんな暖かく優しい手があれば少しは違っていたのだろうか。
鬼灯はAを抱きかかえて樒の部屋へと目指す。
「貴女が愛情で満たされて育ったことに嬉しく思います」
220人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼灯の冷徹」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
鈴(プロフ) - とーとばっくさん» 読んでいただき、ありがとうございます。自分のペースで更新頑張りたいと思います。 (2020年7月20日 15時) (レス) id: b29c9bf4f3 (このIDを非表示/違反報告)
とーとばっく - とても面白かったです!これからも無理のない程度に更新頑張ってください!応援してます! (2020年7月20日 6時) (レス) id: 10c7904400 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:十五 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php
作成日時:2020年7月2日 3時