Bittersweet (ページ2)

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きっと今から、これからの話をされるに違いない……なんて思いながら、店長に促されて店内にある螺旋階段を昇って２階へ上がった

2階のカフェスペースでは、アルマーニのグレーのスーツを着こなした男性が、白いコーヒーカップに口をつけていた

俺はあわててシェフエプロンを外し、頭を下げた

「 Gentil de vous rencontrer. Je……(初めまして。僕は……)」

「日本語で結構ですよ」

「え？」

男性はコップをソーサーに戻して、立ち上がった

「 Gentil de vous rencontrer. 私はこういうものです」

男性はニッコリ笑って、名刺を取り出した

「さ、さく……櫻井翔？」

「はい。そんな読みにくい難しい漢字でしたか？」

小馬鹿にしたように言ってくるスーツ野郎に、カチンときた

「別に？漢字を見るのが久々だったんで。戸惑っただけです」

「ふぅん？まあ貴方の頭には用はありません。用があるのは貴方の腕だ」

櫻井さんはそう言い放ち、俺の左腕を掴んだ

「君が欲しい」

「 ……は！？」

「以前、君の作ったムースショコラを食べたんだ。とても滑らかで、それでいて濃厚な味で。一度食べたら忘れられない素晴らしい物だった」

「え、そんな……」

思いがけない褒め言葉に思わず頭をかくと、櫻井さんは俺の腕を離した

「漢字も読めないような奴に頼むのは俺の理念に反するが、学力と料理の腕は別物だから仕方がない」

「は？」

「君には新しく出来るMaison du g�・teau(お菓子の家)の日本１号店のシェフを任せようと思っている。もちろん給料もそれなりに弾もう」

「え？いや、ちょっと」

「再来月の月末には店はオープン予定だ。来週には君には日本に帰り、店の立ち上げの責任者としてミーティングに来てもらう」

「待て待て待て待て！！」

いつの間にか銀縁フレームの眼鏡をかけて、スラスラと書類を見ながらスケジュールを組んでくる櫻井さんを止めようと、俺は慌てて立ち上がった

「俺、まだ日本に帰るなんて言ってない！」

「給料はそれなりに弾むと言ったはずだが」

「給料が問題なんじゃなくて！」

俺はブンブンと音を立てて首を横に降った

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