112話.桐 ページ12
入るでーと入ってきたのは
濱ちゃんだった。
手元の腕時計を見ると既に1時間経過していたらしい。
やばいな…みんなに迷惑かけてもーた…
濱「2人分大変やったやろ。俺も手伝うな？」
そういうと濱ちゃんは黙って俺と淳太くんの荷物を整理し始めた。
俺も止めていた手を再び動かす。
薄暗い部屋の中で、荷物を漁る音だけがする。
みんな怒っとるかなぁ…
ちらりと濱ちゃんを横目で見るけれど、
濱ちゃんはいつもと同じ表情で黙々と荷物を詰めていた。
俺も再び荷物を詰めるのを再開する。
濱「なぁ…」
荷物整理を始めて十数分経った頃、濱ちゃんは黙々と手を動かしたまま口を開いた。
濱「俺は、淳太んこと信じとるよ」
桐「え…？」
手を止めて濱ちゃんを見ると、濱ちゃんも今度は手を止めて、しっかり俺の目を見てきた。
濱「俺は信じとるよ。淳太は生きとるって。…照史は？」
桐「俺は…」
信じたい…そうであってほしい…
けど…せやけど…
濱「淳太はさ、多分、照史に一番信じてほしいと思うで。」
桐「……」
濱「約束したんやろ。生きるも死ぬも一緒やって。」
桐「…え…」
俺が昔、淳太くんとした約束…なんで濱ちゃんが知っとるん？
濱「ごめんな…ずっと見とったから知っとるよ。」
あぁそっか、濱ちゃんはボギーやったもんな。
でも、今目の前にいるのはボギーなんかではなく、紛れもなく等身大の濱ちゃんだった。
濱「俺はな、淳太が照史を置いて先に死ぬなんて考えられへん。淳太はそんなやつちゃうと思う。」
桐「おん…」
濱「それに…淳太は信じとると思うで。照史が、俺らが絶対助けに来るって。」
桐「…ほんまに？」
濱「おん。ほんまに。」
濱ちゃんのまっすぐな目が俺の瞳を捉えて離さない。
そっかぁ、そうやんなぁ。俺が弱気になってどうすんねん。
今一番辛いのは、淳太くんのはずなのに。
ごめん、淳太くん。
俺の表情が変わったのを見て、濱ちゃんはすくっと立ち上がった。
濱「淳太助けに行ったろう。…手遅れになる前に。」
桐「…おん！」
濱ちゃんの手を取って、俺も立ち上がった。
そんな俺を見て、濱ちゃんは満足そうにへらっと笑った。
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作者名：そら | 作成日時：2019年5月8日 18時
