111話.桐 ページ11
あの後、出発に備えて各自部屋に戻り荷造りをすることになった。
今朝まで淳太くんと二人で過ごしていたこの部屋入る。
「照史、おかえり。」
俺が部屋に入ると必ず聞こえてきたその声も、今はなく、ガランとした空虚な空間がそこに広がっている。
寂しがってる場合ちゃう。急がなあかんねん…
俺の荷物を速攻で鞄に詰めた後、淳太くんの分の荷造りもするために淳太くんの机に手をかけた。
引き出しを開けて、淳太くんがいつも使っているアイテムの数々を一つずつ鞄に詰めていく。
その度に、俺の中のどうすることもできない不安が風船みたいにどんどんどんどん広がっていった。
…なぁ、大丈夫なん…よな…？
誰に聞くわけでもなく、問いかける。
もちろん答えは返って来るはずもない。
やっぱり、止めときゃよかった…淳太くんのこと。
大きくため息をついて、ふと窓の外を見やると
大きな月がそこにはあった。
スーパームーン…
あの日から俺と淳太くんはずっと二人きりだった。
…ずっと一緒や言うたやん…
淳太くんがもし…もし…
考えたくなんてないのに、嫌な想像だけが勝手に脳を支配して、ガムみたいにくっついて離れない。
荷造りを進めていた手はいつのまにか止まってしまっていた。
震える手を淳太くんが眠る前にいつもやっていたように組み合わせて祈ってみる。
お願いします。淳太くんを、淳太くんをお護りください。
何度も何度も両手を力強く握りしめる。
お願いします…お願いします…
その時…
ガチャリとドアが開く音がして、俺は慌てて組み合わせた手を離した。
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作者名：そら | 作成日時：2019年5月8日 18時
