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《やさしさの半分は下心でできています》 1 おまけの話 ページ42
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櫻井の家に来るのは久しぶりだった。
少し前までの売れなかった時代は
時間だけは持て余していて入り浸っていたこの部屋なのに
今では自分の部屋にすら思うように留まることができない忙しい毎日だ。
「…相変わらずだよな」
ぼそりと呟き、大野はぐるりと周囲を見回した。
自分たちを取り巻く世界はすっかり変わってしまったというのに
この部屋だけはそんなことを微塵と感じさせない。
もちろんそれはあくまでも部屋の内側だけのお話で
あの有名な漫才の大会で準優勝してからというもの
すっかり有名になってしまった櫻井のこのオンボロアパートの部屋は
ちょっとした観光スポットとなりつつある。
明るい時間なら「おーい、さくらいー」だの
櫻井の持ちギャグの「いいね〜！」だの
ふざけた掛け声も薄い壁の向こうから聞こえたかもしれないが、流石に夜になれば静かだ。
大野は古びた座布団を抱えて、ごろりと横になった。
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相変わらず窓にはカーテンの代わりに段ボールが張り付けてあった。
この空間だけがまるで切り離されて、漂流しているかのよう。
だからだろうか、ここに来ると少し落ち着く。
正確にはここに落ち着きを感じるようになったのは、ごく最近のことで
当初は戻りたくない過去を見せつけられるようで、しょっちゅう櫻井に引っ越しを勧めたものだった。
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作者名：ありはる
| 作成日時：2015年11月12日 22時
