5 ページ5
・
少し落ち着いた俺は、翔くんに少しずつ話し始めた。
要領を得ないバラバラな話を、翔くんは根気よく聞いてくれた。
「…その人が悪い人だって言うわけじゃないと思うけどね」
「…うん」
なのにこの気持ち悪さは何だろう。
「大丈夫？」
翔くんが身を乗り出して、俺の顔をのぞき込んだ。
顔と顔の距離が近くなった瞬間、急にまた吐き気が戻って来て、俺はトイレに駆け込んだ。
吐き気がせり上がってくるままにげえげえとのどを絞るが、何も出てこない。
気づいたことがあった。
距離感。
いつの間にか慣らされていた、男と自分との距離。
あんな親密な距離は、翔くんとの間でも滅多にない。
なのに、今の今までその違和感に気づかなかった。
何より気持ち悪いのは、それを平気で受け入れていた自分自身。
やめよう。
こんなの、おかしい。
やめよう。
そう決めた。
・
・
「あのさ、もう…会うのやめない？」
いつも待ち合わせる喫茶店で
突然切り出した俺に、男は怪訝な顔をした。
「え？何で？俺、何か大野を怒らせるようなことした？」
「何も」
「じゃあ、何で？」
「だって、こんなのおかしいから」
「おかしくないって。大野は芸術家だろ？で俺はパトロン。大野の時間に俺は金を払ってる。問題ないだろ？」
男の理屈に負けそうになる自分を、俺は必死で叱咤した。
「俺、画家らしいことは何もしてない」
「それはこれからでしょ。あ、投資として見てもらってもいい…力士のタニマチとかさ、あるじゃん」
「…ごめん」
もう理屈ではなかった。
俺が無理だったのだ。
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1020人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ありはる
| 作成日時：2015年11月12日 22時
