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Side S
帰宅したのは、もう午前０時を過ぎた頃だった。
少し飲みすぎたようだ。
櫻井は台所へふらりと足を進めると、水道水を飲み干した。
台所の小さな棚の上には、今日貰ってきた弁当、そして一昨日の夜の飲み会でもらったリンゴが１つ置いてあった。
櫻井はリンゴを手に取り、一口齧った。
乾いた咽喉にリンゴの果汁はとても優しく、あっという間に食べ切ってしまった。
リンゴが芯だけになってしまってから、もっと丁寧に味わえば良かったと思う。
櫻井にとって、果物は嗜好品であり、充分贅沢品だと言えた。
こんなふうに、天から降ってくるように手に入ることが無ければ、口にすることはないだろう。
芯を捨て、手についた果汁を舐め取ってから手を洗った。
大野はもうリンゴを口にしただろうか、とふと思った。
テレビをつけ、深夜帯のバラエティ番組を見ながら寝そべると、ポケットにしまったままの携帯が腰に当たった。
取り出してみると、いつの間にか充電が切れている。
寝そべったまま手を伸ばし、テーブルの上の充電器を取ると、コンセントに繋いだ。
着信が、あった。
１件だけではなかった。
何件も。
全て『大野』と表示されていた。
ネタが出来たから、連絡を寄越したのか。
大野がネタを懸命に考えている最中だというのに、自分が飲み歩いているのを知って、電話をしてきたのか。
それとも…
最後の着信はほんの５分前…自分がリンゴを齧っていた頃だろうか。
しばらくしたらまたかかってくる可能性が高い。
こちらから電話をすれば、大野の怒りを少しは減じることができるかもしれない。
だが、櫻井は携帯を閉じた。
覚えず、口元に笑みが浮かんだ。
もうすぐだ、と思った。
待っていれば、落ちてくるのだ。
向こうから。
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作者名：ありはる
| 作成日時：2015年11月12日 22時
