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Side O
自分が何をしようとしたのか、大野はやっと気がついた。
自分の知らない交友関係。
自分の知らない櫻井。
そんなものが隠されていないか、確かめたかったのだ。
「…翔くん。俺、帰る」
「え？まだ来たばっかりなのに」
「何か、頭痛くてさ」
力なく笑ってみせる。
これは大野の切り札だった。
櫻井は昔からずっと、偏頭痛で苦しむ大野の姿を見て来た。
と同時に、頭痛になど滅多にならない櫻井には、大野の辛さを理解することができない。
だから大野にこう言われてしまうと、何も言えなくなるのだ。
「家でネタ考えて、できたら連絡する」
大野は手早くノートをバッグにしまい、玄関へ向かった。
狭い上に物が並べられた玄関で櫻井と肩が触れたが、気づかないふりをして、外へ出た。
そのまま家に帰る気も起きず、さまようように歩いていると、携帯が鳴った。
櫻井からかと思ったが、それは事務所の先輩芸人の松岡からだった。
彼は数年前のM-1の優勝もしていて、深夜枠だが冠番組も持っている、中堅の芸人だ。
「大野、暇なら飯でも食うか？」
何かと大野たちを心配してくれる松岡は、時々こうして食事をおごってくれる。
「俺が松岡さんより忙しいなんてこと、無いに決まってるじゃないっすか」
「櫻井は？一緒じゃないのか？」
「…ちょっと、また揉めちゃって…」
大野は無意識に甘える自分に気づいた。
「揉めたんじゃなくて、お前の方が勝手にキレたんじゃないの？」
「何すか、それ」
「まあまあ、話は食いながら聞いてやるから。お前、今どこ？」
テンポ良く話を進めていく松岡に答えながら、大野は今しがた歩いてきた道を振り返った。
オレンジ色に染まり始めた空に、建物は黒いシルエットを作っている。
もう、櫻井のアパートがどの辺りなのかすら、わからなかった。
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作者名：ありはる
| 作成日時：2015年11月12日 22時
