【3104 Birthday Box】 1126 BD 2015 (ページ29)

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Side S

案の定、舞台は散々だった。

彼らの漫才は完全に無視されていた。

客にとって、２人は空気のような…いや、空気以下の存在だった。

くしゃりと丸められたゴミが、舞台に転がってきた。

それすら彼らに向けられたものではなく、単純に客が投げ捨てただけのものだった。

型通りの挨拶をして、舞台を降りた。

楽屋には２人が入り込めるスペースはなく、裏口から外に出た。

「俺、帰るわ」

「カレーだけでも食べていけば？」

まかないのカレーが出るこのモノマネショーパブは

貧乏な２人とって、食事代１食分が浮くのでありがたいことだった。

「いい。腹減ってない」

「そう」

「バイト、頑張れよ。じゃ、な」

とぼとぼと自分から離れていく大野の後姿を、櫻井は見送った。

「あれ？櫻井、大ちゃんは？」

楽屋に戻るとすぐパブの店長から声がかかった。

「帰りました」

「そうなの？カレー食べていけば良かったのに」

「声かけたんですけど、腹減ってないって」

狭いスペースに置かれた丸椅子に櫻井は腰かけた。

「そうなの？最近ちょっと付き合い悪いねえ」

楽屋は煙草の煙で白く紗が掛かったようになっている。

「何か用事があるみたいで。すみません」

「いや、謝るようなことじゃないから。ただ…しょうがないかもしれないけど…最近良い顔してないよねえ、あの子」

元々少し気難しいところのある大野だが、幼い顔立ちと人懐こい笑顔のせいか、自然と人が集まった。

だが今は、鬱屈した表情で一人でいることが増え、周りが距離を置き始めているのに、櫻井も気がついていた。

人間は付き合う人間の動静に敏感だ。

特にこの世界の人間は。

剥がれ落ちるように、大野の周りが崩れていくのが見て取れた。

時には、大野自身が内側から壊していった。

…いつか、大野の周りに誰もいなくなったら。

孤独になればなるほど、大野はきっと自分を求めるはずだ。

自分が、大野の唯一の存在に、なる。

それが自分のエゴであることに櫻井は勿論気がついていた。

宇宙はどんどん膨らんでいく

それ故みんなは不安なのだ。