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「あのさ・・・潤、それは脅しになってないよ」
そして俺はソファーの端で、彼に掴まった。
肩を両手で掴まれ、引き寄せられる。
濃い色の彼の瞳が逸らされずに近付いて
俺はその瞳の底を覗き込むように、ずっと視線を合わせたままでいた。
微かに乾いた力強い身体に深く覆われると、口元に少し伸びてきたひげがチクチクと当たる。
大して飲んでいないアルコールに思考が邪魔されていないはずなのに、厚みのある舌に触れると、頭の奥が痺れた。
肩を掴んでいた彼の手は、いつしか俺の顏を掬うように包み、俺も彼のシャツの袖を握っていた。
そしてすぐに、労るような優しいものになった。
「智」
理性で押しとどめているのか、笑みを浮かべているのに、眉間にくっきりと深い皺を寄せている。
「俺は智が好きだよ」
本当に真剣な声だった。
まるで祈るような声だった。
「好きだよ…」
何度もそう言って、俺に触れる。
そこから言葉を引き出そうとするように、優しく囁く。
低いその声に、まるで身体にアルコールが染み渡り、弛緩していくのと同じ感覚に陥っていった。
「智は…？」
ゆっくり彼の大きな体が迫り、そのまま押し倒される形になった。
「少しは俺のこと…」
見上げれば、優しげな皺を寄せた目が、真直ぐに俺の目を見つめている。
その目に弱い。
その目が、多分好きだ。
バカみたいに優しいところが多分好き。
バカみたいに正直なところも多分好き。
バカみたいにいつも真面目で、真剣で、ふざけて、頑張って、笑って、怒って。
「多分俺も…」
ゴツッ
そう言いかけた時、鈍い音が脳に直接響き、目の前に星が飛んだ。
俺は突然の痛みに額を抱えて、ソファーの上に転がった。
横を見ると、彼も額を両手で押さえて、転がってる。
押し倒された俺がソファーでバウンドし、その弾みでおでこ同士が衝突したらしい。
「このソファーーーー！」
彼は腹立ち紛れに、ソファーを拳で叩いていたけれど
やっぱりよく利くスプリングに弾き返されただけだった。
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作者名：ありはる
| 作成日時：2015年11月12日 22時
