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「…じゃ、いただきます」
とりあえず、腹に優しそうな、であんまり高くなさそうなおにぎり系を探して手に取った。
空腹すぎてとっくに麻痺していたのだが、海苔の匂いを嗅ぎ、一口食べた瞬間、食欲が一気に甦った。
きっとこれが生存本能ってやつだろう。
「おいおい。そんながっつかなくてもまだあるから。ゆっくり食べなよ」
笑いながらペットボトルの緑茶を差し出された。
恥ずかしくてたまらなかったが、空腹には抗えない。
かまうもんかと俺はガツガツと食べ続けた。
「へぇ、画家なんだ…芸術家だ」
「あ、いや…全然売れない、落ちこぼれなんですけどね」
空腹が満たされた俺は、男に尋ねられるまま、身の上話に応じていた。
「すごいよなぁ。夢かなえるために頑張ってるなんてさ」
「そんな立派なもんじゃないです」
「俺なんかさ、妥協の妥協だもんな。今の仕事」
ああ、多分俺は、人に肯定されることに飢えていたんだと思う。
芸術の世界でも、外の世界でも認められることもなく、俺の劣等感はピークだったのだろう。
カラカラに乾いた心に「肯定」という水を注がれ、俺のガードは珍しく緩んだ。
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「ね、また会ってくれない？」
「え？」
「えーと、俺にメシおごらせて。たいしたことできないけどさ、応援したいんだ」
「でも」
「たまに絵を描いてもらってさ。その代金って形でもいい」
「…俺、そんな大した絵は…描かないし」
「まあ、その辺は適当でいいからさ」
正直俺は困惑していた。
行き倒れになった人間に同情して、コイツはこんなこと言ってるのか？
可哀想だって思ってんの？だったら願い下げだ。
「俺、そんな人に寄生するみたいなことしたくないから」
男は驚き、うろたえたようだった。
「ごめん。そんなつもりじゃないんだ。俺にちゃんと絵を見せてくれて、いろいろ教えてくれて、その対価を払うって感じで、契約？してよ」
俺はその時、もっと慎重に考えるべきだったのだと思う。
誰かに相談すべきだったのだと思う。
でも俺はすごく浅はかで、俺の絵に金を支払おうっていう人がいることをどこか魅力的に感じてしまったのだ。
描いても誰も目をくれない。
そんな日が続いていたからどうかしてしまったんだと思う。
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作者名：ありはる
| 作成日時：2015年11月12日 22時
