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炎天下の中、彼が難しい顔をして突っ立っていた。
俺は軽く仕立ててあるとはいえ、10kg近い甲冑をがちゃがちゃ鳴らしながら側へ寄った。
「どうかした？」
声を掛けると必ず笑顔を返す。
「あぁ。んー。殺陣がね」
「型が変？」
「説明するんだけど、うまく通じなくてさぁ。俺の英語力の問題かな」
俺から見ればネイティブと互角に話す智の英語力は拍手喝采ものなのに、謙遜にも程がある。
決して向こうに非があるとは言わない。
思わず苦笑した。
「カメラ回ったらやっちゃえば？」
「ん〜？」
「日本風の型にアレンジしちゃえ。回ったらどうせ誰も止められないんだし。撮り直しになったら、そン時だろ」
「やっちゃう？」
「やっちまえ！」
なんだか優等生をたぶらかす不良の気分だ。
おかしくてたまらない。
智も吹き出すように笑った。
二人がなぜ笑っているのか回りのスタッフは分からず、ポカンとした顔をして、それが更におかしく、ほとんど爆笑のようになった。
智は、真っ白い八重歯まで剥き出しにして、子供のような顔で笑った。
なぜかドキリとした。
そんなかわいい顔をして笑うんだ、とその時思った。
いや端から見れば、くしゃくしゃに顔を歪めて笑っているのだから、きれいな顔も台無しだろと思うところだが
なぜかその顔は智の、大人であるとか、俳優であるとか、そんな諸々のものを剥いだ、素の顔のような気がして、訳も無く嬉しかった。
それからしばらくは、その笑顔が瞼に焼き付いて、もう一度その顏が見たくて笑わせたりした。
彼は素直に笑ってくれて、俺は随分と幸せな気分を味わった。
だが、そのうち言われた。
「潤はふざけてばっかりだ」
…いやそんな事は無いんですよ。
いつもは。
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作者名：ありはる
| 作成日時：2015年11月12日 22時
