《願わくば貴方に幸あらんことを》 岡 田の場合 1 ページ1
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脂肪は石鹸7個分。
炭素は鉛筆の芯9000本分。
鉄分は2寸釘1本分。
リンはマッチの頭の部分2200個分。
合計すると約5000円。
…これが人間の値段なんだってさ。
雑学好きでも勉強好きでも物知りでもないけれど、この種の知識は俺の中にすんなり入る。
ネガティブ思考のタマモノだろう。
例えば…例えば、ポジティブシンキングの翔くんなら、こんなこと言われたところで全く意に介さないに違いない。
でも俺は違う。心のどこかでは、これが事実なんだって思ってしまう。
どうせ俺なんて5000円分…いやもしかしたら、俺の場合成分少なかったりしてもっと安いんじゃないの？とかくだらないことを考えてしまう。
笑ってくれよ。
ホント智くんってバカだなって、笑ってくれよ。
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いわゆる月末。
月の終わりじゃなくて、バイト代が振り込まれる直前のこと。
財布の中ももちろん通帳の残高も、ほぼ０に近い数字を示していた。
そりゃバイトに明け暮れれば、当座食うのに困らない生活ができるのは知ってる。
でも、俺は画家なんだ。
芸術家として生きてる。
コンビニのバイトに生活の軸を奪われるわけにはいかない。
それが今のところ最後のプライド。
だから今月も俺は空腹と戦う。
どうしても耐えられないようなら翔くんのところに行こう。
一年前から働いているバイト先のコンビニによく来るお客さんの翔くん。
俺の画家になりたい夢を、唯一鼻で笑わずに真剣に聞いてくれた彼。
彼はどうやら一流企業の会社員で、実家も裕福らしくて
「生前贈与でもらっただけだよ」なんて言ってた一人暮らしには広すぎる間取りのマンションに住んでいる。
彼のところに行けば、いつも何かしら食べさせてくれるんだ。
でもそれは最終手段。
友達でも、甘えちゃダメだって自分を戒める。
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作者名：ありはる
| 作成日時：2015年11月12日 22時
