猫かぶり少女の憂鬱

無自覚 ページ16

業くんのいい匂いとほんのり汗の匂いに包まれて、

頭をそっと撫でてくれて

ぎこちなさが、また心地よく感じる。

…撫で慣れてないし。抱きとめられた時って

どこに腕を回せばいいのかわからない。

だから…手と頭を胸に預けてみた。
業「…！」

とくん…とくん…と胸打つ鼓動が少し早くなった気がした。

自然と笑みがこぼれる。

あ「…業くん、話聞いてくれてありがと」

そっと頭を離そうとして

業「今はだめ」

頭を抑えられる。

あ「!?…業く…」

業「ちょっと黙ってて」

頭の上であー…と天を仰ぐ声が聞こえたあと、

業「Aちゃん。俺も…俺も、俺のことわかってくれる人失うのは嫌だよ」



業「だから死なないでよ。死なれたら俺が困る」



あ「…プロポーズみたい」



業「…は」

業くんの言葉が詰まる。

胸に埋めていた顔をパッと上げて

あ「あ…あれ？」

言葉の意味を確認する為に業くんと目を合わせた。

抱き寄せられてるから、顔が近い。

…自分で言って、自分で恥ずかしくなってきた。

顔から火が出そう、暑い、穴があったら入りたい。

業「顔赤くない？」

あ「あ、赤くない！！赤くないもん！！」

右手で顔を覆って、左手で胸を押して離れる。

──よく考えたらこの状態、すごく恥ずかしいことしてたよね!?

あ「帰る！」

顔を見られないように、先を行く。

業「さっきまでの深刻さはどこ行ったの笑」

あ「業くんのおかげでぶっ飛んだ！」


業「…無自覚なのかなぁこれは」


あ「え？どういう事？」

振り返れば、

業「顔、赤いじゃん」

ニヤリと笑うと、デコピンをして。

結局2人"仲良く"並んで帰ることになった。



私の家に近づいてくる。

あ「そういえば、家どこなの？」

業「この分かれ道を左に行って、奥の方かな」

殺せんせーが送らせるんだから、家は近くかなとは思ってたけど。

──意外と近くにいたんだ…

あ「そっか、私ここを右なの。もう近いし、この辺りでいいよ。送ってくれてありがと」

心のモヤがスッキリした気がする。

業くんに気持ちは誤魔化さなくていいんだって

気が楽になったのかもしれない。

業「別にこんくらい大したことないし、最後まで送るよ？」

あ「いいの。その…今日は色々お世話になったし、申し訳ないよ」

業「ふーん？真面目だねぇ。…わかった」

納得したかと思えば、ニヤリと笑い

業「その代わり、今度"プロポーズ"の返事聞かせてよね」

と言うと、右手をヒラヒラ振って帰っていった。

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