34話 ページ36
ぴんと糸のように、空気が張り詰められた。招集直後はあくびをかいていた短刀が急に真剣な面持ちになるのに、戦場にいる気すらしてくる。
噛みしめた口内は、血の味だ。私は、強くなりたい。いや、なるんだ−−。震える体を、無理に静める。
「反対するものもいるでしょう。ですが、私は行きたいのです。加州と会って、この本丸で様々な刀と会って、そう思いました」
声を上げるものは誰もいなかった。水を打ったような静けさを、張り上げた声で再度壊す。
「前線に、もっと苦しい思いをしている刀もいると聞きました。見捨てておけない、助けたいんです。私に出来るなら」
喉の奥が灼けるように熱い。必死の大声に、声帯が悲鳴をあげた。
心の底で考えていたことが、湧き水のように溢れる。不思議ではない、胸にあるのは、使命感だ。ちっぽけな人間の、小さな正義感だ。
｢人の形をした貴方方は、ただの刀じゃない、道具じゃない。ですが、刀なのです。確かな力を持った道具なのです」
色とりどりの宝石のように見つめてくる眼の中に、決して埋もれない目を見つけ出す。空のように青い、海のように青い。頷きと共に、瞬かれた。
「前線へ行きます！この本丸全員で！」
じんと体に残る余韻をそのままに、みんなの顔を見渡す。呆然としている者、どうでも良さげに目を逸らす者、まだ見ぬ戦場へ胸を昂らせる者。
「話は終わりです。詳しいことは決まり次第お伝えします」
ぱっと一礼すると、袴の裾をひるがえす。沓脱ぎ石に草履を脱ぎ、刀剣男士の集団を横目にその場を辞した。
廊下を歩いた末、客間の前に立つ。 失礼を承知で、 障子の縦桟を数度叩いた。はっきりとした返事を聞き、障子を開ける。
互いに挨拶もそこそこ、向かい合って座ると開口一番本題に入った。迷いなく、一気に口に出す。
「努さん、前線に行きます。どうすればいいんですか？」
「来てくれるか。待ってくれ、なんでお前が俺の審神者名を……？」
見開かれた目には確かな動揺。それに少し驚きながらも、加州から聞きましたと告げた。
「加州か。思いを込められた審神者名は、それだけで真名に近い働きをすることがあるんだ。だからあんたも容易に人に教えるな」
続く (更新停止中)
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