12話 ページ14
左文字の二人の部屋を跡にして、廊下を歩く。
食事の買出しにも行きたかったが、もう少し本丸を見て回ろうと、山姥切と一緒に往く。
本丸の状態はそれはひどいもので、血のこびりついた床や破れた障子、柱もところどころ削れるように壊れていた。
山姥切に本丸の掃除をしよう言うと、山姥切も賛成してくれた。
「障子が破れてるね、張り替えるために部屋の主に話してくるから、山姥切は床を拭く雑巾をもってきて?」
「危険だ、主。あまり1人で行動するべきじゃない。」
山姥切の諌言に対し、主命だよとだけ言うと少し不服そうな顔をして山姥切は雑巾を探しに行った。
心配をしてくれる山姥切はありがたいが、これから一人でこなさなきゃいけないことも増えてくるかもしれないのだ、いつまでも山姥切に甘えてられない。
障子がボロボロの部屋に、障子越しに声をかける。
「あの、審神者なのですが、障子を貼り替えたいのです。入ってもいいですか?」
部屋の主に充分届くはずの声量だが、返事はなく再三声をかけるも状況は変わらない。
失礼しますね、とだけ言って障子を開けると、中にはとても見目の良い刀剣男士がいて、返事を待たずに入ってしまったことを謝る。
優しげな雰囲気の刀剣男士で慌てる私に対して、よいよいと言うと、ゆっくりと距離を縮めてきた。
こちらに歩を進める彼に何も言えず、近づいてくるまでじっと待っていると、手を伸ばしたら触れられる距離まで彼は来ていた。
そこで初めて気がついた。彼自身の発する狂気に。
瞳は光の届かない深海のように暗く、歪に唇が三日月型の孤を描く、ボロボロの部屋に彼の小綺麗さが浮いていおどろおどろしい雰囲気もっていた。
この人はやばい、本能が告げてすぐにその場を立ち去ろうとするも、彼の「主。」のたった一言で足がそこに張り付いたように動かなくなる。
ぴくりとも動かない私にそれはどんどん近付いてきて、私の頬に伸ばされる手に刀が握られている幻覚すら見る。
かろうじて動く目をぎゅっと瞑って、この世のものと思えない恐怖に立ち向かう。
待てども待てども変化はなく、そっと目を開けると目の前に彼はいなった。
いなかったというか、全く違う場所に来ており掃除用具のようなものの前に私はいた。
視点が高くなったことが不思議で、視界の半分近くを埋める白い布から、いま私は山姥切国広ではと推測する。
精神が入れ替わるなんて俄には信じられなかった。
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