10話 ページ12
何度か揺さぶっても起きず、体の傷が痛そうだったので声をかけることにした。
「小夜。朝早くから悪いですが起きてください。昨日から審神者に─」
審神者、という単語に反応したのか、閉じられていた目が見開かれ、小夜が飛び起きて私と距離を
とる。
「人間がなんでここにくるんだ…！」
抜かれた短刀の刀身はボロボロで、血の匂いと共に彼の傷の深さを伺わせた。
小型の動物のように私を威嚇する小夜。
「麻と呼んでください、審神者名ですよ。薬研に頼まれて来たのです。頼みますから治療だけは受けてください。」
なるべく安心させるように、妹や弟と接する時のように笑いかけると、小夜は納刀しゆっくりとこちらに近づいてきた。
昨日ひとつ気がついたのは、私は手入れ部屋でなくとも手入れできるということだ。
性格と審神者の能力は関係していると聞いたが、それのおかげだろうか。
短刀をこちらにおずおずと差し出す小夜がとても怯えていたので、頭をなるべく優しく撫でると気持ちよさそうに目を細めてくれた。かわいい。
打ち粉を使うとみるみるうちに刀の傷は直って、小夜の顔色が心なしか良くなったのが嬉しかった。
「よし、もう痛くないですか？受けてくれてありがとう。じゃあもう私は行きますね。起こしちゃってごめんなさい。」
早い時刻だったから二度寝もしたいかと思い、部屋をあとにしようとする。
「まって！！」
私を引き止めたのは必死な小夜の声だった。
「どうしたんです…！？」
驚きのながらも理由を聞く。
「兄を…顕現してほしいんだ…」
それで貴方が元気になるならしてあげたいよ。してあげたいけど。
「小夜、ごめんなさい。それは禁止されていて…」
「バレなきゃいいでしょ？顕現には許可証が必要なんだけど、前の主から一枚盗んだものがある。これならできるはず…」
小夜の決意を帯びた瞳が私を貫く。
こんな非人道的な行いをする前の審神者から盗み出すことがどれだけ大変だっただろう。
「兄は二人いるけれど、せめて片方だけでも…」
自分よりずっと小さな小夜に目線を合わせて、力強く伝える。
「この本丸が普通に戻ったら、なにがあっても貴方の兄弟を顕現すると誓います。今日はこの一枚を使って１回だけ。お兄さん以外の方が顕現されてもそれを受け入れることを約束してくますね？」
おおきく、大きく頷く小夜。
「じゃあ、やってしましょう。」
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