隠さず19 ページ19
熱で苦しんでいるというのに、まだ上げる気か、この男は。私今、触ったら火傷するぜ? の物理的バージョンよ。
テレビを点けたまま布団を頭に被って、足でベッドを交互に叩く。暴れられる元気をくれたのは感謝だが、全国放送であれは恥ずかしすぎる。自分に向けられた言葉だと胸を張って思える私も、どうかと思うが。
動揺のあまり時間の流れを忘れ、気がついた時には夜の7時を回っていた。マズイ、と起き上がると同時に、ピーンポーンと明るく呼ばれる。
「あ、そこに置いといてくださー......」
末期だ。
熱のせいか、動揺のせいか、ついに幻覚が見えてしまった。これが末期症状ってやつなのかもしれない。
「おー、俺ナマモノだから入るわ」
「え、あ......え」
開いたドアから私を押しのけて入ってくる彼こそが、あの伝説の口パクスト夜久衛輔である。口にはマスク、手にはバレー用品とビニール袋。春高帰りにお見舞いに来たとしか思えない格好だ。
「えっと......試合行けなくてごめんなさい」
「おー、大丈夫だ」
「大会帰り、だよね? 疲れてると思うし、私はいいから休んで」
私の言葉を、おー、の一言で軽く聞き流し、ビニール袋からゼリーを取り出す夜久。それを付属のスプーンで、私の口に押し込んだ。ザ・栄養食というなんとも言えない味が口の中に広がる。難しい顔で飲み込むと、俺のお気に入りーと彼が笑うから、二口目から途端に美味しく感じた。
「......ね、夜久」
「ん?」
「試合、テレビで見たよ。ナイスゲーム」
「お、マジか。サンキュー。無理してねえ?」
「うん、大丈夫」
それでね、と言うのに、少し掠れた声が出た。
「口パク......あれ、なんて言ってるの? 私宛、だよね?」
「あー、あれな......そこまで見てたんだ」
「う、い......って」
「ふはっ、めっちゃ見てんじゃん」
やっべー恥ずいと、頭を掻いて彼が笑う。この後は、いつも通り言い訳が並べられて終わり。私が勝手に、少し照れるだけ。という確信が、私の中で当然のようにあった。
「好き」
だから、彼が小さく呟いた言葉を処理するのに遅れた。
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イルカ(プロフ) - ナノハナさん» しばらく黒尾カッコ良し男ターンです笑。黒尾のいいところフルで出せますように……! (4月18日 19時) (レス) id: 627e4a2f4a (このIDを非表示/違反報告)
ナノハナ - 更新待ってましたぁ!!黒尾、お前は本当にいい奴だよ(涙)更新ありがとうございます!! (4月15日 21時) (レス) @page25 id: 137f80559f (このIDを非表示/違反報告)
イルカ(プロフ) - ナノハナさん» やっくんはカッケェです(真顔)追っかけありがとうございます、こちらも嬉しいです笑! (4月13日 12時) (レス) id: 627e4a2f4a (このIDを非表示/違反報告)
ナノハナ - 更新、ありがとうございます!!!!本当に嬉しいです!!あぁ、やっくんカッケェ… (4月6日 21時) (レス) @page23 id: 137f80559f (このIDを非表示/違反報告)
イルカ(プロフ) - まあさん» こちらこそ……多すぎる好きの受け止めありがとうございます (3月22日 15時) (レス) id: 627e4a2f4a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イルカ | 作成日時:2024年2月19日 21時