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「俺いい事思いついた」
「望のそういう顔は大体いい事ちゃう」
「一芝居打と」
イタズラ好きの望はニヤける顔を抑えきれていない。こういう事を思いついた時は、ドッキリを仕掛ける時のように嬉しそうに笑う。
私と望はそのまま一緒に席に戻る。
お互い深妙な表情で周囲をピリッとさせるように、顔面に不機嫌を貼り付けた。
「2人一緒だったんだ」
佐々木さんは気分がいいみたいで、私たちに話すが、望が無言で椅子に座った事で異変に気がついた。
「どうかした？」
隣に座る愛美ちゃんも私と望を交互に見て、不安そうな表情になる。
「どうもこうもないっすよ」
「え、なになに？喧嘩？」
田中さんも気がつくと、その場の空気はどんどん重くなる。
「望がそんな態度やから空気悪くなる」
私は望を睨みつけるように見て言う。
「は？何でAにそんな事言われなあかんの？」
「ほらすぐイライラするやん、それやめたほうがいいで」
「なに、何で喧嘩になったわけ？」
仲裁に入るように佐々木さんが言う。酔いが冷めてきたのか、しっかりした口調だ。
「望がそこら辺にいた女性とトイレの前で連絡先交換してるから、何しに来たんって注意しただけなんです」
「俺が何してても勝手やろ」
「そういうチャラチャラしたところ、昔から嫌やなって思っとってん」
「まあまあ、2人とも元々仲良いんでしょ？」
「仲良いなんて思った事ないです」
「ちょ、Aさん落ち着いて…」
愛美ちゃんも思わず私の腕に触れた。
周りが気を使い出したらそれが合図になる。
「もう限界。愛美ちゃん、ごめん。私ここで帰ります」
鞄から財布を取り出すとお金を置く。
「は？逃げるん？」
「望と一緒にいたらご飯美味しくなくなる」
私は席をすっと立ち、佐々木さんを見る。
「空気悪くしてすみません。またお仕事、よろしくお願いします」
「え、Aさ、」
私は一礼すると、そのまま店を出た。
早足で駅まで向かう。周りの人と肩をぶつけながらも、風を切るように前に前に、と足を出す。
とにかく遠くへ。店から早く離れたい。
私はニヤける口元を抑えるのに必死だった。
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作成日時：2019年2月25日 12時
