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「えー、帳を忘れるなんて五条くんって意外と抜けてるの?」
「知らない。お陰で折檻食らってたよ」
馬鹿だなあ。そうカラカラと笑う私の前で呆れる傑くんはあの日から私に話しかけてくれることが増えた。
「私の出番はまだかな」なんて言いながら変わらず味方でいてくれる彼と話すのが日常になった。呼び方も気づいたらお互い名前で呼び合うほど。
私が五条くんの愚痴を吐き散らすことを分かっていて、五条くんがいないタイミングを見計らって来てくれる彼は本当に仏である。(一生帰ってこなくとも……なんて思っては五条くんに殺されかねないので心の中だけに留めておく)
「でも誰も気づかないなんて、信頼されてるんだね」
なんとなく微笑ましく感じてそう呟けば、
「……信頼、か」
傑くんは視線を落として、意味ありげに呟き返してきた。
なんだか、不安を煽る間があったのは気の所為だろうか。ごくりと生唾を飲み、彼のなんとも言えない表情を見つめた。彼は視線を下に向けたまま、独り言のように声を出す。
「信頼と裏切りは、紙一重だと思うけどね」
「え?」
「真逆だと思うかい? 思うだろうね。確かに意味としては真逆だ。ただ、それは紙の上の墨が記しているものに過ぎないよ」
「信頼と裏切りは表裏一体。白が黒にひっくり返るには造作もない」
何の話、してたっけ。
さっきまで笑っていた彼が偽物だったかのようにどこか暗く澱んだ瞳をしている。
いきなり道徳観の話をしだした傑くんに黙っていられず、無理に声を突っ込んだ。
「どういう、意味?」
「白も黒も元を辿れば同じものってこと。信頼なんてものをするから、人は裏切りだと感じるんだよ。どちらにしても、信頼なんて薄っぺらいものだ」
「また正論? それ」
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作者名:優 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/list/2ytluvuush1/
作成日時:2021年3月11日 18時