月光の前奏曲 -第4番- (ページ5)

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１５…side:Keigo.A ページ5

☪*｡꙳

　途中まで口を開いた俺の言葉を遮ったのは、俺を追って走ってきたであろう忍足と宍戸で。

その声に気を取られた隙に俺の手を振り払った亜久津は、早歩きで踵を返していった。

「あっ、おい！待て亜久津！！」

「え、亜久津？？」

「何があったん……って、うぉ、なに？どしたんA」

「……は？え？不審者ってもしかして亜久津なのかよ？」

　俺の腕に力なく横たわる彼女を見た忍足の声に反応した宍戸も、同じように声をあげる。

返事のない俺の顔を忍足が覗き込んで、様子を窺っているのが視界の端で見えた。

「跡部もその頬どしたん？血出とるで」

「おい、何があったんだよ跡部」

「……跡部？」

　亜久津の背から目を離し、Aの顔を見つめたまま動かない俺を見て、宍戸と忍足が不思議そうな声色をしながら何やら問いかけてくる。が、それに答える気など微塵もおきなかった。

　今俺の中にあるのは亜久津への怒りと一抹の不安。

一体あの男に何されたってんだこいつは。やけに引っかかる発言を残していった亜久津には明日問いつめるとして、今はとにかく彼女のことだ。

　未だにどうしたんだと飽きもせず声をかけてくる二人をその場に放置して、Aを抱いたまま宿舎へ歩みを進めた。

躊躇いもなく自分の部屋に彼女を連れ帰ってベッドへその体を横たわらせる。

　だからといって疚しい気持ちがある訳では無い。

今は彼女を一人、部屋に置き去りにすることが不安だった。ただそれだけ。

鍵をかければいい話なのかもしれないが、Aが目を覚ましたタイミングで万一亜久津が来てしまったら、このバカはなんの疑いもせず扉を開ける。そうなれば、鍵などなんの意味も持たない。

　まぁそれも可能性的には低いのだろうが、それを零にする事に越したことはない。

　本当に、どこまで俺を振り回せば気が済むんだこいつは。

　言葉とは裏腹に彼女が眠るベッドへ腰をかけてその白い頬を親指で優しく撫でてやれば、どことなく彼女の表情が緩んだ気がした。

その表情と同調するように顔が綻ぶのを感じながら、彼女の横に並ぶように体を倒した。

　月の光に照らされる彼女の顔がやけに綺麗に見えてしまう。

無意識にも浮かぶ影をなぞるように指を滑らせた先で触れた唇が熱帯びていて。

その温度がどうしようもなく欲しくなって、自分でも気づかないうちに上半身を軽く起こして口付けをしていた。